〜成功する独立〜

第5話          10 11
1.人のやる気

(1) あらすじ

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?吉武が貫井企画に加わるものの、今までの吉武を知る木村は批判的である。吉武の行動に不審を持つ木村に対して、貫井は広小路製薬の仕事に集中するように言う。
広小路製薬の納品の日に、とうとう木村の怒りが爆発する。しかし、吉武はイトーヨーカ堂の店舗リニューアルの仕事を取ってきたことを伝えたことで一件落着し、吉武の歓迎会と仕事の打ち上げを兼ねてみんなで飲む。酔った挙句、貫井が籐子にキスをしてしまう・・・

(2) ドラマのポイント

?a 吉武が貫井企画に加わったことで、社内の雰囲気はどう変わったか?

吉武が加わるまで、起業前からの親しい関係である貫井と木村、そして、唯一の女性でクリエイターとしては新米の籐子と、3人のバランスが取れていた。そこに、吉武という、営業分野では他のメンバーが口出しできないエキスパートが入社し、木村との感情的対立以外に、社長の貫井との経営上、仕事上での対立が生じる懸念がある。そのため、籐子のように、クッション役になれる人材の役割が重要である。

?b 後から加わった人間に対して周囲はどう対応すべきか、また、後から入った人間は組織にどう溶け込むか。

まず、後から入社した人間を仲間として迎え入れ、積極的なコミュニケーションを取り、組織の使命、理念、ビジョンといったことから、業務上のことまでをレクチャーし、組織の中でなるべく早く仕事をしてもらえるようにしなくてはならない。一方で、後から入社した人間は、組織にいち早く馴染むため、積極的にコミュニケーションを取らなくてはならない。今回のドラマでは、吉武の入社を望んでいない木村が、吉武に反感を持っているため、吉武が貫井企画に溶け込むための障害あった。吉武も一匹狼的なところがあり、自ら木村とのコミュニケーションを取ろうという姿勢がない。こうした場合、経営者としては2人が話し合う場を設け、感情的対立を解消する支援をしなくてはならないが、貫井はそこまでやっていなかった。

c なぜ、貫井企画の人たちは仕事の後まで同僚と一緒に酒を飲むのだろう?


会社の同僚というより、より良い広告を作るという目的を共有した、運命を共にする仲間同士だから、友人感覚で、しかも仕事の話ができる良い関係なのだろう。そうしたことからすると、吉武はその仲間には入りきれておらず、ちょっとつらい立場である。

d 貫井と籐子がキスしたことで、社内へどういう影響を与えるか考えてみよう?

貫井が籐子へ弾みとはいえキスしたことで、小さな組織の人間関係が変わり、仕事がやりやすくなるかもしれないし、やりにくくなるかもしれない。

e 籐子は名刺をもらいなぜ嬉しそうにしたのか?

人間が動機づけられる1つの要因として、仲間から認められるというものがある(第7回で詳細に説明する)。名刺をもらえるということは、一人前の仲間として貫井たちに認められたことであり、Assistant Creatorという職位は、籐子が目指すクリエイターとしての第一歩を踏み出せたこともあり、喜んだ。

f 籐子の仕事に対する意欲は、貫井企画に入社した当初からどう変化したか、分析せよ

当初、憧れの貫井から独立に際して声をかけられたので、やる気満々であった。彼女は仕事振りを認められたということで、動機づけ要因が満たされた。しかし、それが間違えと言われ、辞めて欲しいという貫井の冷たい仕打ちもあって、彼女のやる気は落ち込んだ。仕事の確保という衛生要因すら満たされなくなったのである。その後、貫井企画の仕事がうまくいかなかったことから、籐子は自分の仕事と存在意義を貫井企画の中に見出し、それが彼女の衛生要因を満たし、やる気につながった。そして、natural upの広告アン決定で貫井や木村から仲間として認められ、吉武の引抜にも成功した。今回、Assistant Creatorとしての地位を与えられ、動機づけ要因が充足され、意欲はいっそう高まっている。

2.動機づけのメカニズム

(1) なぜ仕事をするのか

a 受動的・・・命令によって行わされる仕事。

b 主体的(誘因に反応)・・・人間の動機づける様々な誘因(動機づけ要因)に反応して仕事を主体的にしていく。


(2) 動機づけとは何か

人間のある特定の言動を引き起こすよう、促すための働きかけを動機づけと呼ぶ。何によって行動を促進できるかは、個人的特性(価値観、目標、性格)、置かれた状況によって変わってくる。

?(3) 「人間関係論」byメイヨー

1920年代に行われたGEホーソン工場で行われた実験から生まれた理論で、良好な人間関係がやる気を引き出すという結論が導き出された。
しかし、人間関係は動機づけの一要因に過ぎない、という批判がなされた。

(4)「欲求階層説」byマズロー

マズローは人間の欲求が下図のように階層的になっており、下位の欲求が満たされると上位の欲求へ関心が移るとしている。非常にわかりやすい理論で、説得力も感じられるが、人間の欲求は整然と階層になって欲求の高次化していく、というのは現実的ではないという批判がなされた。例えば、籐子は貫井企画へ転職して十分な給料を得ておらず、生理的欲求が満たされているとは思えない。しかしながら、仕事を通じて尊厳欲求や自己実現欲求を充足しようとしている。こうした、アトランダムな欲求に関しての説明を、マズローのモデルでは説明できない。



(5) 「X理論Y理論」byマグレガー

a X理論・・・従来の組織における性悪説に基づく人間観で、従業員は主体的に働きたがらないし、責任も持ちたがらないから、飴とムチで管理しろという管理手法が望ましい。

(6) 「マクレランドの理論」byマクレランド

欲求を達成欲求、権力欲求、親和欲求に分類し

a 達成欲求の強さは職務業績と強く相関するが優秀な管理をするかどうかはわからない

b 親和欲求と権力欲求の強さは管理能力の高さに相関する

c 権力欲求が強く、親和欲求が弱い管理者がもっとも高い業績をあげた

という結論が導き出された。

(7) 「動機づけー衛生理論」byハーズバーグ

a動機づけを衛生要因と動機づけ要因に分類し、衛生要因は不満の予防につながり、動機づけ要因は仕事のやりがいにつながる、という結論をくだした。

b 衛生要因=賃金、労働環境、人間関係、仕事以外の外発的要因

c 動機づけ要因=仕事の達成感、他者の評価、仕事の内発的要因

籐子は賃金に関しては満足できないものの、憧れの貫井と一緒に仕事をし、木村とも人間関係は良好であり、衛生要因は満たされ、貫井企画での不満は抑えられている。一方、仕事では楠木文具の仕事、吉武の引き抜きでは達成感を味わい、貫井と木村からも評価を得てAssistant Creatorになり、動機づけ要因も満たされている。
3.プロセスに注目した動機づけ理論
?(1) 「公平説」byグッドマン&フリードマン

職務に対する労力とそこから得られる報酬を天秤にかけ、その
バランスが他者や経験上公平と評価されていることが動機づけになる。

(2) 「強化説」byルーサンス、ハムナーら

人間の学習効果により。適度な報酬は動機づけになるが、報酬がなかったり罰せられた
りするとその行動は控えられてしまう。

(3) 「期待説」
byポーター&ローラー

人間行動は努力が報酬につながる期待と、報酬の魅力によっ
て決まるという、動機が形成される過程を論理立てて説明したモデル。与えられた目的に対して、過去の経験や与えられた情報から達成すると満足するという期待の下で努力をする。努力に本人の能力と資質、自分はその仕事で成果をあげなくてはならないという役割の知覚が加わり、業績があがる。業績は努力によってもたらされるという期待が、次の努力を生む。業績の結果、経済的、精神的報酬を得、満足する。それが、思っていた報酬どおりであれば、次の努力に結びつく。



例えば、籐子は彼女なりに努力をして、彼女の感性や売上を少しでも増やすことへの自覚が努力をいっそう促し、その結果、楠木文具の仕事に成功した。楠木文具の仕事に対して貫井や木村から誉められるという精神的報酬を獲得し、満足感につながった。それが次の仕事への動機づけになる。また、努力が成果につながるという期待も、次の努力の動機づけにつながる。

(4) 「目標設定モデル」

人間は自己成長の欲求があるため、より困難な目標のほうが動機づけが強くなる。