〜変革のリーダーシップ〜

第1話          10 11
1.組織とは何か

(1) あらすじ

流行っていないフレンチ・レストラン「ベルエキップ」に若い男(原田禄郎)がやってくる。若い男はフレンチ・レストランに慣れていないようで、従業員は小馬鹿にした態度で接客する。少し経って中年の男(千石武)がやってくる。若い男と待ち合わせのようで、久しぶりに再会したという雰囲気。この中年男は食通のようで、このレストランのことも詳しい。従業員達はこの客達に興味津々。偵察者を出してまで彼らを探ろうとしたが、その時店内でトラブル発生!すると中年の客が…

(2) 主な登場人物

役名(出演者) 個人データ

千石武(松本幸四郎)

伝説のギャルソン(給仕人)で亡くなった前オーナーと共に渡仏し、修行。帰国後ベルエキップを前オーナーと設立して一流のレストランにするが、前オーナーの経営方針に馴染めず退職。

原田禄郎(筒井道隆)

商社の経理部門を辞職し、亡き父親から相続した仏料理店のオーナー天真爛漫な好青年。

磯野しずか(山口智子)

味の再現力にかけては才能豊かな女性シェフ。フランスの三つ星レストラン「ランボラージュ」に通い詰め、フランス料理を舌で覚えた。性格は粗雑で勝ち気だが、情にもろい。橋幸夫のファン。

水原範朝(西村雅彦)

前オーナーで原田の異母兄の総支配人。三条を愛人にしているのに見られるように公私混同し、リーダーシップもなく経営者としてはあまり有能ではない。猜疑心が強く、小心者。妻と子供とは別居中。

三条政子(鈴木京香)

元クラブホステスのバーマン(バーテンダー)。客商売はあまり好きではない。酒癖が悪い。

梶原民生(小野武彦)

食堂支配人。ベルエキップに転職して5年目。離婚して現在独身。見栄張りな性格で、風俗の情報を集めるのが趣味。世渡り上手で47歳のスケベ男。

畠山秀忠(田口浩正)

スー(副)・シェフ。まじめでやる気があるが、パニック症候群に陥ることがある。調理師学校を出ている。

稲毛成志(梶原善)

パティシエ(菓子調理人)。悪い男ではないが、皮肉っぽい性格で、個人主義的。

大庭金四郎(白井晃)

実力のあるソムリエ(ワイン給仕)であるがゆえに、プライドが高い。流行っていない、実力のない従業員の店でくすぶっているのに耐えられない気持ちがある。自分の職務には忠実で、プロの仕事に対しては正当に評価する。

和田一(伊藤俊人)

コミ(アシスタント)・ギャルソン。お調子者で、噂好きだが、店のムードメーカー。

佐々木教綱(杉本隆吾)

皿洗い。原田と同じく天真爛漫で仕事熱心。父親が陶器を作っていたので、それで皿を洗うのが好きになった。

ジュラール・デュヴィヴィエ(ジャケー・ローロン)

食材係。歩道で雑貨を売っていたところを水原にスカウトされた。日本語はよく分からない。

(3) 用語解説

a. アペリティフ:食前酒。

b. アラカルト:単品料理。

(4) ドラマのポイント

a. 従業員の接客態度はどうか?

千石が指摘しているように、プロとしての能力と自覚に欠けている。また、顧客重視の志向が全く感じられない。これは厨房で働く従業員も同じで、厨房でタバコを吸うシェフは失格。唯一ソムリエの大庭がプロとしての能力がありそうであるが、顧客に接する態度はサービス業で働く人間としては失格。なぜ、従業員がこんな感じなのかは、経営者である水原が飲食店経営のプロとしての能力を持たず、的確な指導や教育をできていないからであろう。それなのに従業員には威張って、自分の愛人をバーマンにする。これでは下で働く従業員も働く気が起きないだろう。顧客重視の組織文化を生成することと、基本的職務スキルの向上を図らなくてはならない。


b. 「サーモンの臓物パイ」を作りすぎたシェフのしずかをどう考えるか?

売れない商品を作れば、生もの故に処分しなくてはならず、店にとって損失になる。そうした経営者的発想がしずかにはない。ファストフードでさえ、廃棄ロスを少なくする商品の管理をしているのに、高級食材を使用するフレンチレストランがこれでは、赤字になっても不思議ではない。少なくともシェフは厨房の責任者であり、コスト管理の責任を負わなくてはならないはず。水原が組織のシステムをしっかり決めていないことと、しずかのおおざっぱな性格が問題であろう。しずかにコスト責任を負わせ、原価管理をしっかりさせる必要がある。飲食業の場合、食材の原価が売上の3分の1程度でないと、厳しい。


c. 総支配人水原は経営者としてどのような人間であるか想像しよう。

千石を評論家と疑って店の評判を気にすることと、従業員に対して尊大な態度をとるところに経営者としての意識は見られるが、本質的には経営に関して興味も薄いし、能力もなさそうである。千石が尊大な客を帰した後、「近頃は客の質も落ちまして・・・」と水原は言っていたが、そのような客しか来ない店自体に大きな問題があるのにね。


d. 千石の「ここは私の働く場所ではない。あまりにも変わってしまった。」彼の理想のレストランとは?

まず、千石は一流のフレンチレストランとは、顧客が食事を楽しみ、楽しい時間を過ごすために最高の料理とサービスを提供する場であると考えている。そのため、従業員に対してプロとしての高い能力と自覚、そこから生ずるプライドを求めている。それゆえに、いい加減なギャルソンを酷評し、ソムリエに対して失礼な態度を取る客を退店させた。そして、高度なプロフェッショナルな人材をまとめるリーダーとして、偉大なシェフ、ギャルソン、オーナーが必要であるとも言っている。リーダーの重要性を認識しているのだ。店名「ベルエキップ」の由来に関して、千石は原田に話したところを見ると、プロの集団として課業(仕事)志向の強い組織でありながらも、一流のレストランを目指し、共にがんばるという仲間意識や友情をしっかり持たないといけないと感じているのであろう。経営学者のバーナードは組織の構成要件として、共通目的、貢献意欲、コミュニケーションを挙げている。残念ながら「la belle eqipue」は、一流になるというような共通目的もなく惰性で店を開いて、従業員は店に対する貢献意欲も貢献できる能力も持ち合わせておらず、切磋琢磨して店を一流にしようとするための仲間意識やコミュニケーションもない。そんな店には千石は戻りたくないのであろう。


e. 大庭が「シャンベルタン」を注文する客に対するソムリエ大庭の対応はあれでいい?

若い女性の前で、自分の頼んだワインでなく、違うワインにしたほうが良いとソムリエに言われれば、男性客の面目は失われる。顧客に食事やワインを楽しんで貰うために、ソムリエは顧客の希望に沿ってアドバイスをする役目である。自分の知識と能力におぼれ、サービス業の本質を見失った大庭はプロのソムリエ失格である。


f. 千石が無礼な客に「お客様は王様であるが、首をはねられた王様も多い。」といって返した行動をどう考えるか?

三波春男が言うように「お客様は神様」である。そのため、どんな客も受け入れるべきではあろうが、店も顧客を選択する権利がある。店のルールを破ったり、従業員を不愉快にさせるような客を毅然とした態度で対応することも必要。ユニークなサービスを提供している米国サウス・ウェスト航空で、キャビンアテンダントにセクハラ行為をした客に、二度と当社を利用するな、といったそうである。顧客も大切だが、それ以上に一緒に働く仲間が大切である、という価値観を示したのだ。千石の場合は、ソムリエというプロが侮辱されたことに対して、プロのギャルソンとしてのプライドが許さずあのような行動に走ったのであろう。


g. 原田がいやがる千石を再びギャルソンに復帰させることができたのはなぜか?

「僕の支えになっていたのは父ではなく、店で働くあなたの姿だった。もう一度あなたの働く姿を見たい。」いやー、凄い殺し文句ですね。そこまで情熱的に言われればぐらっときてしまいます。千石にしてもしずかの料理に大きな可能性を感じ、プロのギャルソンとして彼女を育てて一流のレストランにしてみたいと思ったからでしょう。


h. なぜ千石が店の名前の由来を話したのか? 彼は何を言いたかったのか?

経営者は自分のわがままを満足させようとする裸の王様になってはいけない、共通の目的を達成するためのリーダーであり、仲間であり続けることを言いたかったのであろう。仕事も大切だが、誰と仕事をするのかも非常に重要である。一緒に仕事をするもの同士、仲間意識が持つことの重要性を言いたかったのであろう。そこに、千石のリーダーシップの本質、課業志向と人間志向の高度なバランスが見られる。


i. 一流のフレンチレストランの条件、偉大なオーナー、シェフ、ギャルソンと言っていたが、本当にそれだけでいいのか?

フレンチレストランを運営するリーダーとしては3人で良いかもしれないが、その下で働く人間も重要。その従業員たち能力と貢献意欲を高めることも一流レストランに必須であろう。組織は偉大なリーダーだけでもだめで、組織のメンバー全員の力と貢献意欲が高くなくてはならない。

2.組織とは何か?

(1) なぜ組織が社会に存在するのだろうか?

a. 市場の失敗を補う(コース)

b. 個人ではできないことを複数の人間の協働で可能にする(バーナード)

(2) 組織とは何か?

a. 組織=経営資源の集合体(ペンローズ)

人、金、モノ、情報が有機的に結びつけられたシステム。

b. 組織=意識的に調整された協働システム(バーナード)

意識的に、物的、生物的、個人的、社会構成要素からなる複合体を調整するシステム。

c. 組織=意思決定のシステム(サイモン)

意識的に調整する、という側面を協調した視点。

d. 組織=社会-技術システム(エメリー&ツイスト)・・・社会的特性と技術的合理性の複合システム

人間行動のシステムである組織は、技術的・機械的内部合理性を追求する内部構造を持つと共に、環境との相互作用を持つオープンシステムとしての側面を、動機的・認知的有機体としての側面、利害の異なる人間同士の社会的相互作用を持つ。

(3) 組織と外部環境

組織は外部環境との相互作用を行い、組織を維持していく。

3.バーナードの組織の概念

(1) 人が集まっていれば組織なのか?〜組織の必要要件

a. 共通目的…集まった人の個人目的だけではなくみんなで共有する目的を持つ

b. 貢献意欲…自分だけのためでなくみんなの共通目的のために貢献する

c. コミュニケーション…集まった人の間で仕事と仲間のことを理解するために重要。またみんなの力を共通目的に揃えるために、コミュニケーションによる調整が必要。

(2) なぜ人は組織に参加するの?

組織内部の均衡…組織からの誘因(報酬) > 組織への貢献(労働力の提供)

共通目的を能率良く達成するためにルールがある→それに従いたくなければ組織を辞める

(3) 組織はなぜ社会に存続できるのか?

a. 組織の外部均衡=組織目的を達成する

b. 外部環境から正当性の支持を受ける(スコット)

(4) 意識的に調整された協働システム

a. 組織の中の役割分担・・・共通目的を効率よく達成するために役割分担がある

b. リーダーとメンバー(職能分業+コミュニケーションの経路)、ギャルソンとシェフ(職能分業)

(5) どんな組織が誰にとって良い組織なのか?

儲けている組織? 社会に役立っている組織? 働きやすい組織? 顧客にとって好ましい組織?

(6) 組織のステークホルダー(利害関係者)

経営者、従業員、株主、顧客、社会、業界他社、取引先、規制官庁

(7) ベルエキップを組織として評価しよう

a. ベルエキップの組織としての共通目的は?

何が目的なのか明示的でない。その結果、従業員は惰性で仕事をしている

b. オーナーと従業員は組織の目的のために意欲満々?

組織目的があいまいなため、有効な組織目的達成のために、十分な動機づけが行われておらず、やる気が見えない。

c. 働いている人達の間でコミュニケーションはうまくいっているか?

経営者の水原と従業員の間でのコミュニケーションは不十分のようだ。従業員間のコミュニケーションは仕事以外では十分取れている。

d. 店の雰囲気は?

客が少ないないのと、従業員がやる気がないため、暗い。

e. ベルエキップを改善するのにはどうしたら良いか?