〜変革のリーダーシップ〜

第11話          10 11
1.変革のリーダーシップ

(1) あらすじ

千石がベルエキップを去ってから1年後のある晩の話。その晩もベルエキップは人気レストランとして、橋幸男、フレンチの鉄人坂井シェフ、服部シェフなど多くの客で賑わっていた。従業員はプロ意識を持って働き、三条は水原と結婚しマダムとして接客をするようになっていた。水原は相変わらずいかがわしい新規事業に関心があるようだが。ところで、原田はある客を駅に迎えに行くといって店を出て、伝説のギャルソン千石を店に連れてくる。未だに千石の影響が残る従業員達は様々な反応を示す。千石は難しい料理の注文ししずかを試すが、一流のレストランにふさわしい料理とサービスを受けて、口癖の「素晴らしい」を連発する。そして、料理の最後に、千石が店を去るきっかけとなった稲毛のデザートが出されてくる。デザートを一口食べた千石は「パティシエを呼んで欲しい」と言い出し…

(2) ドラマのポイント

a. 千石が去って、店はどう変わったか?

特に変わったのは三条、しずか。三条は水原と結婚し、精神的に落ち着き、バーマンから彼女の適性を活かした接待役となり、生き生きと仕事をしている。以前のような受け身の女ではなく、店でそれなりのリーダーシップを取っている。しずかはシェフとして不得意な料理があって相変わらず自信のある料理だけを勧めてくれというが、リーダーとして仕事に厳しくなり、稲毛からは女千石と呼ばれるくらい、千石の意思を引き継いで頑張っている。千石失踪時にはリーダーシップを発揮して男を上げた梶原は、あいかわらず風俗記事の収集をしている。水原はベランダで飼える牛みたいないかがわしい事業に再び手を出そうとしている。厨房でタバコを吸うなどたるんできた稲毛は、未だに千石という名前を聞くと、恐ろしくなる後遺症に悩んでいる。店は一流として評価されているが、一部の従業員に気のゆるみが見られる状態かも知れない。

b. 千石の姿を再び見た従業員の気持ちは? 特にしずかはどう思ったのか?

最初は驚いた表情をしていたが、「何をしに来たのか?」、「俺たちがちゃんとやってやっているか偵察をしにきたのか?」、「今更どの面下げて来たのかね」と否定的な発言をしていた。これは千石が仲間である自分たちを棄てたというように思っているのと、千石がいなくても自分たちはうまくやっているという自信から、このような発言が出てきたのであろう。

c. なぜ原田は千石を探し出してベルエキップに招待したのか?

原田は千石がいないベルエキップでは一流と言われてもうれしくないと思っているのではないか。原田にとって12人が揃って、ベルエキップなのである。そこで、千石と再び店へ戻ってきて欲しいと言いたかったのだ。また、千石に一流になったベルエキップを見てもらいたい気持ちもあったと思われる。いずれにせよ、原田はこの日を待ち望んでいた。

d. 千石はなぜメニューにない注文をしたのか?

一流の店の名物料理を注文して、しずかの成長ぶりを試したかった。千石にとってしずかは自分が見つけた逸材なので、その成長が気になったのだろう。また、以前もしずかの作れないアラカルト料理を客に注文させ、ベルエキップに変革のきっかけを作ったが、今回は厨房全体のレベルがどうなっているかも試したかったと思われる。

e. 千石がしずかの料理を綺麗に平らげるのを見た従業員達はなぜあんなに喜んでいたのか?

千石が料理を綺麗に平らげたということは、千石が美味しいと思ったから。そのため、綺麗に平らげられた千石の皿を見て、自分たちを見捨てた千石を見返した気持ちと、千石の無理な注文を見事に料理し高く、先生である千石に評価された喜びがあったからだ。

f. 千石が帰るということを政子(旧姓三条)から聞いて、なぜ従業員は拍子抜けの表情をしていたのか?

千石が再びベルエキップへ足を踏み入れた瞬間から、従業員たちは新たなドラマを期待していた。そして、稲毛が千石から誉められたことによって、千石が店を去った原因が除去されたので、新しい展開を従業員たちは予想していたのだ。それがあっさりと否定されて、期待が裏切られ拍子抜けという気持ちと、千石と再び一緒に仕事ができない寂しさを感じたのであろう。

g. なぜ千石は教える資格がないといったのか?

一番大切な仲間意識を忘れて店を去る羽目になったことと、稲毛のパティシエとしての潜在能力を見抜けなかった自らの不明から、教える資格がないと言ったと思われる。

h. 最後に千石に呼びかける従業員達の気持ちは?

大庭は高い能力を持ったプロとして、千石を非常に尊敬し、仲間として大切に思っていたため、「帰って来いよ!」と最初に呼びかけた。そして、あれだけ千石を恐れていた稲毛も、「やっぱ、店に必要ですよ。」と言い、千石が店にとって欠かさざるを得ないキーパーソンであることを認めている。あまり千石を好きでなかった水原が、千石のために取っておいたギャルソンの制服を無言で差し出し、千石にずっと帰って来て欲しいと思っていた気持ちを示した。最後に、しずかが「早く一流のシェフにして」と言ったが、なぜか「早く私を幸せにして」と言っている気がしてならない。

i. 何が千石の気持ちを動かしたのだろうか?

こらだけみんなから、自分が大切に思われているのを感激したのであろう。でも、「この店が一流の店ですって。」と言って、店の欠点を挙げるところに、千石の負けず嫌いの性格が出ている。

2.変革への3ステップ

新しい環境に対する組織変革への起爆剤

 

step1 メンバーの改革への認識

 

step2 新しいビジョンの創造

 

step3 組織変革の定着化 → 新しい環境に対する組織変革の起爆剤

(1) 新しい環境…先代オーナーの死去と不景気によるベルエキップの経営悪化

(2) 起爆剤…千石と原田の参加と様々な揺さぶり(千石のオーダーミス・リストラ騒ぎ・名物料理開発)

(3) 変革への認識…旧来の仕事のやり方や意識では新しい環境に適応できない

(4) 新しいビジョンの創造…一流のフレンチレストランにするための分業システムやシェフの役割の変化

(5) 組織変革の定着化…しずかを中心にした厨房の業務システム構築・名物料理+プロ意識とチームワークの意識+新しい組織文化

3.組織の変革とリーダーシップ

(1) 組織の変革

a. 業務や組織のシステムだけではなく7S で組織の変革が可能になる

b. 新しい知識を創造することで革新を起こし組織を変革する

c. 革新による組織の変革で組織は成長し進化していく

d. 挑戦心に富んだ優れた組織文化は組織変革を生じやすくする

e. 変革のためには強力なリーダーシップが必要

f. 組織の変革には危機意識から変革の必要性の認識、新しいビジョンの創造、組織変革の定着化の3ステップが必要

(2) 変革の種類

a 漸次的進化過程:有効性と能率を達成して安定的な組織均衡をしている状態でも、希求水準の上昇や環境変化から漸次的進化する。

例:ばらばらだったベルエキップの従業員の中にまとまりがでてくる

b 革新的変革過程:危機への直面から組織の均衡を打ち破り、不連続な変化によって環境へ適応していく。

例:千石のオーダーミスから、今までの厨房業務のやり方を捨てて、千石の指示する新しいやり方で対処した。

(3) 7Sにおける革新から組織を変革する

a ハードのS:Strategy, Structure, System

・びっくりムースの開発(製品戦略面での革新)

・休日にコーラスの練習(新しい非公式組織の創造による革新)

・厨房のシステムのリエンジニアリング(業務システムにおける革新)

b ソフトのS:Shared Values, Staff, Skill, Style

・従業員たちは仕事にやりがいを求め、プロの仕事をする(組織文化における革新)

・各従業員の能力向上(人材の革新)

・チームワークが生まれる(組織能力における革新)

・水原から千石、そして原田へリーダーシップが移る(経営スタイルの革新)

(4) 仕事を通じた個人の成長で組織を変える

a. 人間は誰でも仕事における成長欲求や貢献意欲を持つ(Y理論をベースに)

b. リーダーの重要な役割の一つはそうした欲求を満たし部下を育てること

c. 個人の成長にはリーダーの信頼が必要→メンバーへの権限の委譲、リーダーの支援と責任の負担

d. パンの大きさは器の大きさで決まる。人間も環境の良さで随分変わって、能力もやる気も高くなっていく。

(5) 変革できる組織、変革できない組織

a 変革を好むリーダー、メンバー、組織文化の存在

b 変革の阻害要因は埋没コスト、慣性、戦略的近視眼、失敗の否定

・埋没コスト・・・NTTはISDNへの多額な投資が埋没原価になることを恐れ、ADSLへの進出が遅らせたことで、戦略的に大きなミスとなった。

・慣性・・・NTTは長らく公社であったため、その時代の組織文化や業務のやり方が慣性となって、民間企業の経営を阻害している。

・戦略的近視眼・・・日本の石炭会社お多くは事業領域を石炭発掘として近視眼的に捉えていたため、エネルギー源の主役交代の流れに適応できず衰退していった。

・失敗の否定・・・減点主義の役所組織では新しいことをやって失敗するよりも、前例に従って失敗しない方が合理的であり、その結果、組織は保守的になる。

(6) 新しい知識を創造することで革新を起こし組織を変革する

(7) 知識創造のスパイラル

優秀な人間のサービスに関する知識(個人的暗黙知)→周囲の従業員が優秀な人からサービスの方法を学んでいく(組織的暗黙知)→従業員が話し合ってサービスのマニュアルを作る(組織的形式知)→新しく入った人がマニュアルでサービスを覚える(個人的形式知)→そのサービス方法を身体で覚え、その人の持っている異なる暗黙的知識と結びつく(個人的暗黙知)

(8) 進化する組織

a. 組織メンバーの成長と共に組織も成長・・・ベルエキップでは組織が自ら進化する自己組織化が生じた

b. 組織メンバーの進化は組織の進化につながる

c. 組織の進化は組織の革新を源にする

d. 組織文化の保守化は組織の進化を阻害する

(9) 進化する組織を創る

a. ダブル・ループ学習…今までのやり方自体を見直し学び直す→常識にとらわれていると進歩がない

b. 最小必要限定性…あいまいな部分を残しておく→個人の創造力を発揮する余地を残す

c. 機能冗長性…互いの仕事を手伝える余分な能力をメンバーが持つ→組織では助け合いが重要。そこから新しいことが生まれる。

d. 最小有効多様性…少数精鋭かつ多様的な能力を持った人材→みんな組織に貢献できる機会を持つ。そして、多様な能力は環境の適応力を高める。

4.変革のリーダーシップ

(1) 変革の伝播経路

a トップダウン・イニシアチブ型

例:千石と原田が経営トップの視点から変革を始めた。

b ボトムアップ・イニシアチブ型

例:千石が去ったとき、自信を失った水原と原田が営業を休止しようとしたのに対して、梶原がイニシアチブを取って店を営業させた。中間管理職である梶原がとった行動が、千石がいない中、店を一流にする変革のきっかけになった。

c アップ&ダウンによるポジティブ・フィードバック型

例:経営トップの動きにすぐ中間管理職が呼応し、それが経営トップの自信を深めさせ、変革への動きを助長する。

(2) 創造的破壊

a 新しいビジョンの創造による変革への誘因

b 過去と決別するための、陳腐化した7Sの破壊と人の意識改革

(3) 変革への動機付け

a 成功体験を初期の段階で味合わせる

例:千石のオーダーミスを、業務システムにおける革新で乗り切り、しずかたちは成功体験を味わった。それが次の革新、名物料理の開発などへの動機づけになった。

b 自己実現欲求と変革を結びつける

例:しずかがシェフとしての自己実現欲求を持ち始めたときに、名物料理の開発を持ちかけ、製品革新を起こした。それが料理面での評判を呼び、従業員たちは自信を持ち、組織変革へつながっていった。

(4) 変革し続け、進化する組織への体質改善

(5) 変革のリーダーとしての資質と能力

a. 楽観主義

b. 心身のタフさ

c. 起業家精神・管理能力・リーダーシップ能力

5.素晴らしい組織を創ろう!

(1) 状況によって変化するリーダー…一人のリーダーが変化する組織の状況や外部環境の中で常にリーダーシップを取り続けるのは困難で組織にとって危険性もある→その状況や環境でもっとも有効な能力やスタイルを持つ人がリーダーシップを取る

a. 業務に関しては千石がリーダーシップを取ることが多い

b. 最終的な意思決定と人間関係のリーダーシップは原田が取る

c. 日本とEUの首脳の食事で問題解決のリーダーシップを取ったのは三条

d. 千石が店を去った危機でリーダーシップを取ったのは梶原

(2) 優れた組織文化で組織の革新を起こす

a. 変革を拒まない組織文化

b. メンバーのやる気を出させる組織文化

c. 常にチャレンジを恐れない組織文化

d. メンバーを尊重する組織文化

(3) 組織のビジョン(将来構想)を持とう

a. みんなをわくわくさせるビジョン

b. チャレンジ精神をくすぐるビジョン

c. みんなが成長できるビジョン

(4) 戦略を持とう

a. 組織の競争力を高める武器を持とう

b. 最高の料理とサービスを提供しよう

c. 組織の競争力の源泉は人であることを認識しよう

(5) 信頼の輪による管理をしてみよう

a. 信頼が新しい信頼とやる気を生む

b. 信頼が人を成長させる

c. 人の成長は組織の進化につながる

(6) 仲間意識で結ばれた組織を創ろう

a. 一緒に働きたいと思える仲間がいる

b. 信頼と十分なコミュニケーションがある

c. 同じ目的とビジョンを共有する

d. 他のメンバーを大切にする

e. チームワークで個人の力の総和以上の力を発揮

(7) 教育的組織を創ろう

a. 仲間を成長させてあげよう

b. 互いに切磋琢磨して成長しあおう

c. リーダー以外の人でもリーダーシップを取れる能力を育成する

(8) こんな組織で働きたいと自分でも思え、他のメンバーやお客様も思うような組織を創ろう!

(勉強した分野)
組織論、リーダーシップ論、行動科学、意思決定論、組織文化論
(参考文献)
「組織行動論」by坂下昭宣、白桃社
「高業績チームの知恵」byカッツェンバック&スミス、ダイヤモンド社
「21世紀の経営リーダーシップ」byコッター、日経BP出版センター
「組織文化とリーダーシップ」byシャイン、ダイヤモンド社
「21世紀企業の組織デザイン」byガルブレイス他著、産能大学出版部
「なぜ会社は変われないのか」by柴田昌治、日本経済新聞社