〜地域を変えるコミュニティビジネス〜


第9話          10 11
1.生産技術と経営

(1) あらすじ

荒木は福井の地酒「美泉」を夏子たちに飲ませ、その素晴らしい味に杜氏を始めとしてみなショックを受ける。草壁は龍錦に合った新しい酵母を手に入れ、杜氏に新しい酵母の採用を提案するが、杜氏に意見は一蹴される。
荒木が開催した「地酒の夕べ」で、夏子は美泉の作り手である蔵元内海酒造の内海社長に会い、自分の酒、夏子の夢を具現化する酒を造りたい気持ちを持ち始める。そして、草壁の研究している新しい酵母に対して夏子も関心を持ち、自分たちの酒を一から考えたいと杜氏に対して主張する。そのため、蔵のメンバーの和が乱れ、それが遠因となり、月の露に異臭がかすかについてしまう事件が起こる。杜氏は責任を感じてショックを受ける。

(2) ドラマのポイント

a. 新しい酵母を手に入れた草壁の気持ちを考えてみよう。

草壁は亡くなった康男の影響を受け、夏子が始めた龍錦による酒造りを自分の夢としてコミットしようとした。そして、夏子と共に苦労しながら、龍錦を栽培し、村で広めた。それだけに龍錦による酒造りは他の蔵人より思い入れが強く、最高の酒を造るため、夏子の酒を造るために妥協したくなかった。しかし、草壁は下働きなので、酒造りに参加できるのがごく一部分の作業だけである。そこで、いても立ってもいられなくなり、自分なりに新しい酒造りを研究し、これはと思った酵母を手に入れることとなった。

b. なぜ、夏子は冴子にもう一度働くことを勧めたのか?

冴子が龍錦栽培を1年限りにすると言ったのを聞き、龍錦栽培の仲間として残念に思った。そこで、龍錦の酒造りには直接的に参加できないが、その現場に一緒にいて欲しくて、佐伯酒造で働くことを勧めた。また、冴子にしても本当は龍錦の栽培ももっとやりたかったし、龍錦による酒造りも見守りたかった。どのため、夏子の言葉に素直に従い、佐伯社長にも謝罪して、再び雇ってくれるように頼んだ。佐伯社長も前回、AV騒ぎから逃げるようにして会社を辞めたことを怒っていたかも知れないが、夏子から冴子の意識の変化を聞いていたので、会社への復職を認めた。

c. 内海の言葉「酒造りに勝ち負けは無用。飲んだ人が決めてくれる」この言葉の意味を考えよう

作り手が勝った、負けたと騒ぐのではなく、飲む人のために最高の酒を造り、顧客が美味しいと喜んでくれれば作り手にとって最高の賛辞であると思っている。だから、金賞を取るより、顧客のために最高の酒を作り続けることしか、内海は関心がない。

d. なぜ、夏子は一から龍錦を使った酒造りを考え直したいと言ったのか?

草壁から言われた「自分の酒を造りたくないのか」という言葉に加えて、内海から話を聞いた夏子は人任せにしない自分たちの酒、夏子の酒を造る決心をした。そのため、最高の酒、七色に輝く夏子の酒を造るために杜氏の考えた酒造プランという既存の枠組みから見直そうといった。これは夏子によるダブルループ学習であり、それが夏子の酒という革新を生むことにつながった。

e. 草壁は、自分の行動がなぜ蔵の和を乱したと考えたのか?

古くからある小さな酒蔵会社は師匠と弟子のような上下関係が厳しい職場である。下働きである草壁が杜氏の仕事である酒造計画に口を挟むことは職場のシステムや組織文化を壊す行為である。草壁は頭の良い青年だが、龍錦に心を奪われ、今回の件はそこまで考えられず、酵母の件では自分の意見を杜氏に主張してしまった。夏子が杜氏に草壁の酵母を検討するように言った結果、草壁の先輩たちは夏子のやり方に反発したくても専務なので反発できず、彼らの反感がすべて草壁へ集まることになった。そんなときに、袋香が酒に混ざるというミスがあったので、草壁は自分の行動の影響を考え、自分の主張を取り下げようとしたのである。

2.生産技術と経営

(1) 少品種少量生産

a 労働集約(人手がかかる)的な製品の生産で、機械に依存する部分は少ない。佐伯酒造はこのタイプの生産方式である

b 単純な作業だけでなく熟練的特殊な技術が必要なことも出てくる

c 組織は単純な形態で、固定的なシステムを持たない柔軟性のある有機的組織が適合しやすい。

(2) 大量生産システム

a 大量販売の画一的製品

1900年代に出てきた大量消費時代に対応した、ベルトコンベアによる流れ作業を取り入れた生産システム。

b 装置産業(大型機械や自動生産装置を必要とする事業)

人手がほとんどいらない、自動化された工場を持つ業種、電力、鉄鋼、化学会社などもある。

c 組織は機械のコントロールを集中的に行い、少数の品種しかないため、集権的組織が適応しやすい。

(3) 多品種少量生産

a 経済の成熟化に伴う顧客ニーズの多様化による、経済性よりも独自性が必要な製品となって多品種化する傾向にあった。

b 分散処理型の生産、コンピューター制御による多品種少量生産が技術的に可能になった。だたし、コストの上昇が生じた。

c 組織は異なる品種ごとに責任を担当する組織を変える、分権型組織が適応する。

(4) マスカスタマイゼーション

a 多様な製品を低コストで生産するために生まれた生産手法。

b 画一的な基本部品でコストを抑えつつ、部品の組合せで顧客の多様な欲求に応える。デルコンピューターのようなBuild To Order(受注生産)の企業が代表的な例。

c 組織は異なる品種ごとに責任を担当する組織を変える、分権型組織が適応する。

(5) 日本酒の生産工程

3.熟練技術による生産

(1) 熟練技術とは?

長年の習熟によって身につける高度な生産技術のこと。杜氏の技術はまさに熟練的。

(2) 熟練技術の本質

a 暗黙的(身体に染み込んだ表現しにくい)知識に基づく直感、洞察力、とプログラム化された行動が複合的に結びついた技術

例:杜氏が次の工程作業を行う意思決定をするのは、長年の経験から裏打ちされた洞察力に依存する。こうした力も熟練技術である。

b 熟練技術を明確に形式知にはできず、その性質はあいまい、アナログ性、神憑り的でさえある

(3) 熟練技術への依存の危険性

a 属人的な技術ノウハウ

例:杜氏が病気で倒れたら「月の露」の味を出せなくなる

b 伝承することの困難さ

例:なかなか杜氏の後継者は作れず、原作ではじっちゃんが倒れたときに外部から優秀な杜氏を招くことも考えられた。

c 一定以上の技術水準になるまでの修業年限の長さ

一人前の杜氏になるためには10年単位の修行が必要なようである。

(4) 熟練技術のIT化

a 熟練技術をデジタル情報化する

熟練技術が日本の製造業の競争力を作り上げているとも言われ、そうした熟練技術をデジタル情報へ置き換える試みがなされている。金型メーカーのインテックは金型生産の熟練技術情報をデジタル情報に置き換え、アルバイトもコンピューターを使いながら精密な金型を生産できるようにしている。

b Computer Aided Manufacturing(コンピュータを利用した生産)

4.製品開発

龍錦を使った酒の開発にはこうした製品開発の仕方をしていないが、下記の方法は一般的。

(1) 製品コンセプトの開発段階

a アイディアの探求とスクリーニング(良いアイディアだけを残す)

例:新しい発泡酒の味を始めとして、パッケージ、ターゲットに関するアイディアを出し、良いアイディアを複数探し出す。

b 製品コンセプトの開発

例:もっとも良いと思われるアイディアをベースにして、誰が主要顧客か、どんな味か、どんなパッケージにするか、価格などを、他社の製品ポジショニングなどを考慮しながら決定する。

(2) 戦略仮説の検討段階

a マーケティング戦略立案

例:製品コンセプトにあわせて、販売経路、広告、販売促進方法を立案する。

b 事業経済性分析

例:売上、生産コスト、一般及び販売管理費を予想して、利益が十分でるかどうか評価する。利益が出れば(3)の段階へ。利益が出なければ、(2)aの段階までをやり直して利益が出るプランへ修正する。

(3) 製品化段階

a 製品開発

例:実際の製品を少数生産し、製品や生産工程に不具合などがないか、コストが予想通りかどうかをチェックする。

b テストマーケティング

例:ターゲット市場と近い構造の、より小規模な市場でテスト販売して消費者の反応を探る。札幌市や静岡県がテストマーケティングの場として良く利用されるらしい。

c 生産管理

例:本格生産に当たっての歩留まり工場や品質管理をもう一度チェックする。

(4) 新製品販売

例:新製品を販売したら、広告や販売促進を消費者や販売チャネルへ行い、需要を刺激する。