〜地域を変えるコミュニティビジネス〜


第6話          10 11
1.変革のマネジメント

(1) あらすじ

龍錦の栽培に関する会合は失敗に終わったが、夏子の真剣な気持ちを知って草壁は源さんの田を使い、龍錦栽培を始めようとする。恋人の反対から前言を翻し、友人の陣吉は龍錦の栽培には参加しないというものの、陣吉はなぜか心にひっかかるものを感じる。無農薬による害虫の発生を恐れる区長の陣吉の父から、夏子は村の和を乱さないで欲しいと言われる。しかし、幻の米龍錦の稲穂が出て、それを見た源さんや陣吉の気持ちを次第に変えていく…

(2) ドラマのポイント

a. 夏子はなぜ一人で苦労に耐えられるのか?

「強ければ夢なんか見ない。強くなりたいから夢を見たんだよ。」夏子はそう語っているが、もともとは単なる頑張り屋で弱い部分もあり、誰かに頼りたい部分もある。夢を持ち、それを追い求めるゆえに、強くなっていっている部分がある。特に兄康男が精神的支えになり、荒木、父、草壁、源さんの様々な支援、同級生の冴子の嫌みに反発して強くなって、いる。そして、何よりも龍錦が順調に育っているから、一人でも頑張れるのだろう。

b. 夏子、荒木、兄嫁和子、草壁、冴子の人間関係を考えよう。

夏子は荒木に対して好意以上の感情を持っているが、荒木は友人康男の妹ということで、女性としては見ていないようだ。荒木は多分、康男と和子が結婚する前から、和子を一方的に好きだったのであろう。しかしながら、康男と和子が結婚し、友人として潔く片思いを諦めたと思われる。康男が亡くなり、昔の想いが蘇るが、和子の気持ちが亡くなった康男に今でも向けられているのを忸怩たる思いでいるに違いない。草壁は当初夏子に対して、お嬢さんの気まぐれで尊敬する康男の夢を継承すると言っていると感じて反発していた。しかしながら、康男の夢に対して真摯に追求する姿勢に考えを改め、元来持つ夏子の明るさや優しさに恋愛感情を持ち始めるが、恋愛感情が夏子の夢の障害になるかも知れないという懸念と、使用人という立場もあって言い出せない。そんな草壁に好意を感じているため、冴子は苛立ちを覚え、その矛先を恋敵である夏子に対して嫉妬を向ける。加えて、都会での成功を棄て、周囲から守られて夢を追い求める夏子へ、自分との境遇の差から人間としての妬みも感じているのかも知れない。

c. 草壁はなぜ龍錦の栽培を手伝って欲しいと源さんに頼んだのか?

源さんは、夏子と良好な関係を持つ唯一の農業者である。それゆえに、龍錦栽培には欠かさざるを得ない重要人物である。また、都会に住む子供の世話にならず、かといって農村での生活に生き甲斐を持たず、飲んだくれている源さんに夢を持って欲しいと草壁は思っているかも知れない。

d. 龍錦の稲穂を見て、源さんや陣吉の気持ちはどう変わったか?

夏子の語る夢やビジョンに対して魅力を感じながらも、農業の困難さを知っているゆえに、素人の夏子による龍錦栽培は実現できないと初めから決めつけ、否定しようとしていたようだ。しかし、夢の部分的証である龍錦の稲穂を見て、幻の米の稲穂を見た感動、夢が夢でなく現実になるかもしれないという期待感、農村で生まれ育ち働く人間として自分で栽培したいという感情がわき上がったのだろう。そして、夏子の夢は2人にも共有された。

e. 実家に帰る決心をつけていた和子の気持ちを変えたものは何か?

康男が亡くなる前に和子のために頼んだ、夏祭りのための特別あつらえの浴衣が思いがけず届き、康男の和子への強い愛情を感じ、佐伯家にいる自分の存在意義を悩んでいた気持ちが解消し、康男の側にいたいと強く思うようになった。これが良いかどうか分からない。死んだ人間はあくまでも想い出の中でしか生きていけない。現実の世界を生きていくためには、過去と決別して、新しい道を歩んだ方が望ましい。しかしながら、亡くなった人間が生きている人間の気持ちを奪うことが良くあり、マンガの「めぞん一刻」(高橋留美子作)はそれを主題にしている。荒木は大変な恋敵を相手にしなくてはならないといえよう。

2.変革への道のり

(1) 変革のプロセス

a. 変革者の登場

社会環境が停滞していると、変革者が注目されやすく、登場しやすい。このドラマでは地域社会に閉塞感があったため、康男は夢を追い求め、新しい酒に挑戦しようとしたのではないか。

b. 変革者のビジョン布教

変革の活動は宗教活動のように、最初はなかなか相手にして貰えず、孤独である。とにかく自分の考えを説いていくしかない。そのうち、少しずつ耳を傾ける人が現れ、支援者も増えていく。康男の夢を継承した夏子は、最初、彼女を積極的に支援していたのは、家族と荒木だけであった。いや、家族もいつかはあきらめると思っていたかも知れない。それでも、夏子は自分のやるべき事をこなし、周囲にビジョンを説いていき、少しずつ浸透させている。

c. 反対者からの巻き返し

最初は変革者を相手にしていなくても、その勢力の拡大の兆しが見えて、現状へ影響を与えそうになると、現状に満足している反対者は変革者を潰しにかかる。隣家の吉田さんの妻は、都会から帰ってきた、若くて可愛い女が訳の分からぬ米作りをしていることに感情的に反発している。陣吉の父である区長は農家を守るという立場と、期待していた跡継ぎの陣吉が気持ちを豹変したことで、夏子の夢を潰しにかかっている。こうした反対者の声は大きく、現状を守るという人間の保守的な意識とも相まって、同調者を増やすことになる。

d. ブレイクスルー〜ターニングポイント

変革の流れを勢いづけ、少数派から多数派へ転じるきっかけになるのが、ブレイクスルー(突破)的事件である。往々にして、不可能であると思っていた変革者の夢やビジョンが一部でも具現化されることで、流れが変わることになりやすい。このドラマにおいては、龍錦の稲穂が、夏子の夢が成功する証明となり、源さんや陣吉といった新たな支援者を得ることになった。龍錦の稲穂は一時的現象でないため、今後龍錦の米を収穫することになればいっそう成功に近づき、自分でも試したい農業者、成功にあやかりたいと感じる者の支援者や参加者を増やすことになる。

e. 変革の成果の定着

変革は流動的で、つねに変化し続ける。しかしながら、変革の成果は定着化させる必要がある。ジレンマであるが、変革の成果を定着させることが、変革の勢いを止め、陳腐化を起こさせるきっかけにもなる。

(2) 変革者の登場

どんな人間が変革者になれるのか

a. 現状・将来に不満や危機意識を持つ人

b. 異質の考えや視点を持つ人

c. 夢を持つ人

d. 意志が強く、実行力もある人

(3) ビジョンの作り方

a. 崇高な使命が含まれている

何か変えるときには大義名分が必要

b. 夢がある

ビジョンに他者を巻き込むには、人の気持ちをわくわくさせる夢が必要。

c. 実利がある

せちがらいけれど、実利を追い求める人も多いから、これがないとビジョンは広く浸透しないことが多い。

(4) 反対をはねのける方法

a. コアになる支持者を増やす

b. 正論とビジョンで多数派を味方にする

c. 反対者を切り崩す

(5) ブレイクスルーが流れを変える

a. 成功の証明

b. 成功の閾値近くでの成功が地滑り的変化をもたらす

(6) 変革の成果を定着させ、変革の仕組みを制度化する

a. 変革の成果を定着させ、変革は効用を高めることを認識させる

龍錦の栽培方法を共有し、地域で大々的に栽培するよう制度化する。龍錦の米価が高いゆえに、その地域の所得水準が高まるなどの効用が認識されれば、地域の農民は自発的に変革の成果を定着させようとする。

b. 変革は一時的現象ゆえに、継続的に変革し続けるには制度化する

変革し続けることはかなりパワーがいるため、制度化することも考えられるが、制度化が新しい、異なる変革を阻害することもあり、両刃の剣。

c. 人の意識が変わり、変革し続けることを苦にしなくなる

人の意識が変われば、制度化も必要ないし、新しい変革もおきやすい

(7) 変革のジレンマ

a. 変革が成功したときから陳腐化が始まる

b. 変革の成果を再び否定し新たな変革を起こす必要

c. 変革の仕組みの制度化自体が、異なる変革を妨げることになる

3.変革のマネジメント

(1) 変革を起こしやすいメカニズムを構築する

a. 新しい動きを放任する

b. 少数派の尊重

c. 過去、現在、未来からの制約を少なくする

d. 競争による淘汰

e. 失敗の奨励

(2) 失敗の重要性

a. 変革には失敗がつきもの

b. 失敗は成功の素〜学習効果

c. 失敗の容認が変革者のリスクを減らす

(3) 変革こそが組織、地域社会の進化につながる

4.地域の変革とコミュニティビジネス
(1) コミュニティビジネスを梃子にした地域の変革

コミュニティビジネスは地域の中に新しいビジネスを起業することであり、それが地域の中で成長していく過程で地域の変革が生じる。

(2) 変革の過程

第1段階 ビジョンとミッションを持った人がコミュニティビジネスを起業

第2段階 コミュニティビジネスで働く人たちの意識改革

第3段階 コミュニティビジネスの顧客の支持

第4段階 コミュニティビジネスに対する地域社会の支持

第5段階 成功例から新たなコミュニティビジネスの創造

(3) 変革への鍵

a コミュニティビジネスのミッションやビジョンの理解を周囲に浸透させ、共感と支持を得る。

b ミッションやビジョンは互恵であり、生きがいを刺激するようなものである。

c 早期の段階で小さな成功を体験させ、変革への不安や疑念を払拭する。

d コミュニティビジネスが地域社会に対してオープンであること。

(4) 事例「明宝レディース」

岐阜県に明宝村という人口2,000人程度の人口の高齢化が進んだ村がある。高齢化と過疎化という課題に対して、村は観光と農業の活性化を図った。観光に関しては名鉄グループと村が第三セクターを作り、めいほうスキー場を開設した。地元の主婦がめいほうスキー場で、地元の農産物を使った食堂を経営して、儲けた。農業に関しては明宝ハムという特産物以外に、なにか欲しいということになり、その主婦達が地元の規格外品のトマトからケチャップを作ることになった。施設は村が補助金を活用して作り、明宝レディースという会社を第三セクターを作った。明宝レディースのケチャップは評判を呼び、今では会社も成長し、高齢者の女性の働く場、村の農産物の販売先となっている。