〜地域を変えるコミュニティビジネス〜

第7話          10 11
1.地域の経営と戦略

(1) あらすじ

それぞれの人の想いが交錯する一方、龍錦は丈夫に育っていく。陣吉は結婚相手と別れて龍錦栽培を手伝ってくれると言ってくれるが、恋人と別れて龍錦に賭ける陣吉に対して夏子は単純に喜べない。陣吉の父は龍錦栽培に反対するが、陣吉は龍錦栽培会の会員集めに奔走する。
台風が村を襲い、他の農家の稲は損害を受けるが、龍錦は無事だった。しかし、夏子は荒木の和子に対する想いを知り…

(2) ドラマのポイント

a. 陣吉親子の葛藤を父の視点、陣吉の視点から考えよう。

両者の葛藤は、陣吉が恋人の反対で農業を継がないと言い始めたことから始まった。父親としては長男として農業を継いでくれることを期待し、陣吉も一時期は龍錦に挑戦するようなことを言っていた。父としては龍錦だろうが何だろうが、とりあえず陣吉が農業を継ぐと言ってくれたことに満足していた。しかしながら、陣吉が恋人の反対で意を翻し、その理由を自信がないからとしか言わなかったので感情的におもしろくなかった。龍錦が単なるお嬢さんのお遊びだから陣吉が農業をやる自信をなくしたと父は考えて、また、区長という立場もあって龍錦反対を明確にした。ところが、再び陣吉が龍錦をやると言い始める。陣吉は恋人を別れてまで、夢に打ち込む訳だから、龍錦栽培に半ば意地になっている。結婚を諦めてまでやり始める龍錦栽培だから、失敗したら、何のために恋人と別れたか分からなくなるからだ。しかし、父は陣吉に一度裏切られているから信用できない。また、区長として一度、龍錦反対を明確にしたから、簡単に反龍錦の旗を下げるわけには行かない。父は父で龍錦潰しに意地になる。親子という関係もあって、2人の意地がぶつかって、葛藤になっているのである。

b. 「今の陣吉君じゃ、一緒には龍錦の栽培をできない」となぜ、夏子は陣吉に言ったのか?

龍錦栽培に参加してくれるのはうれしいが、恋人と別れて不幸にしてまでも、意地で龍錦を栽培しようとするのに賛同できないのである。

c. 農家の嫁にはなりたくないと言っていた静恵の気持ちは、なぜ変わったのか?

陣吉を心から愛していたが、農家の仕事は厳しいから、農家の嫁になりたくないと言って、陣吉の気持ちを変えようとしたのである。しかし、もし、陣吉が「それでも結婚してくれ」と強く迫ってくれたならば、静恵は受け入れたのではないかと思う。ところが、陣吉は別れると言い出したので、落胆していた。それを気づいた陣吉が再び、プロポーズをしてくれたので、当然、受け入れたのである。また、夏子に会って話を聞き、龍錦を見て陣吉の夢を理解し、共感したことで、静恵の気持ちを変えたのであろう。

d. 台風の中、なぜ、冴子も龍錦を守ろうとしたのか?

冴子は自分自身変わりたかったが、どうしたら変われるか、分からなかった。龍錦の栽培は彼女自身が変わるきっかけになりそうであったが、夏子への反発もあって自ら飛び込めない。また、冴子は地域社会に絶望しており、変わって欲しいと思っていた。龍錦はかすかであるが地域社会を変える可能性を持っていた。龍錦は冴子にとって、小さいながらも希望の光であったのである。その龍錦が台風でダメになったら、自分が変わるチャンスも、保守的な地域社会が変わるチャンスもなくなってしまう。そこで、いても立ってもいられず、龍錦を守ろうとしたのである。加えて、冴子は夏子を意地悪をしていたが、本当は夏子が好きなので、夏子を助けたかったという気持ちもあったと思う。夏子を見ていると、誰だって助けたくなるのでは?

e. 龍錦の栽培は、地域社会にとってどのような意味合いを持つようになるであろうか?

龍錦栽培の夢は夏子だけの夢でなく、佐伯家の夢であり、草壁、源さん、冴子の夢になり、夢を共有していく人が増えれば、地域社会にとって大きな影響を及ぼすプロジェクトになる。それだけに失敗は許されなくなるため、夏子も慎重になりつつある。

2.地域の経営

(1) 地域の経営とは

a 地域に対する経営資源(人、物、金、情報)のインプット(投入)からアウトプット(産出)への変換を統制し、生産性を高める

例:北海道へ公共事業による資金を投入し、それによる農地改良という価値を生む過程を統制し、資金から価値への転換の生産性を高める。

b アウトプットの中の効用(得られる価値)=住民満足という有効性を高めるように統制する

例:農地改良というアウトプットに占める住民満足の比率が有効性の程度で、それを高めるようにコントロールする。

c 費用に対する効用=住民満足という効率を高めるように統制

例:農地改良という公共事業にかかる費用に対したの住民満足の得られる効率を高めるようにコントロールする。

(2) 地域経営の担い手

a 地方自治体と行政組織

b NPO(非営利民間組織)

c 民間企業

d 地域社会

e 個人

(3) 地域経営の手順(トップダウン式)

a 首長(自治体の長)や議会主導の地域のビジョン(将来像)と戦略の策定

b 行政組織・NPOを通じた戦略の実行

c 地域経営に関する評価

(4) 地域経営の手順(ボトムアップ式)

a 個人や地域社会から地域のビジョンや戦略に対する働きかけ

b 首長や議会が支持

c 行政組織やNPOによる戦略の実行

d 地域経営に関する評価

(5) インプット費用を低減する

a 地域の経営資源(人、物、金、情報)の有効活用

例:地域の自然状況、特産物、人材などをなるべく使い、地域社会の産出価値を高める。芦別のカナディアンワールドのように、テーマパークのコンセプトから借り物で、自然を生かさないような経営資源の使い方は、地域経営の観点から効率が良いとは思わない。

b 他地域との協調で経営資源を共有する

例:南空知における介護保険の広域連合。複数の市町村が共同で介護保険事業を行う。

c 各種の支援策を活用

例:国からの補助金をうまく利用する

(6) 効用の価値を高める

a 顧客のニーズ(欲求)を見いだし、ニーズに合ったアウトプットを行うことで効率よく効用へ結びつけていく

例:地域住民がどんな地域社会を望んでいるのか、それを知ることなしに首長や議会が各種施策をしても住民満足は高まらない。

b 他地域へのアウトプット供給でインプットを獲得する

例:地域で生産した特産物を全国へ売ることで、経済的収入を挙げる。

3.地域の戦略

(1) 地域戦略

a ビジョンに基づく成長経路の指針

例:地域の農家が生き甲斐をもって働けるようにする(ビジョン)→龍錦のような付加価値の高い米を作り、高収入を挙げる一方、龍錦で日本一の酒を造って、その酒造りの一端を担っているという満足感をもってもらう。

b 経営資源の獲得、蓄積、分配

例:地域社会に必要な経営資源を獲得したり、蓄積し、新たな価値産出のために分配する。

c 地域内部および地域外部とのシステム構築

例:地域社会の中で、価値を産出するシステム、龍錦を農家が作り、その米を使って佐伯酒造が日本一の酒を造るというシステムを構築する。そして、その酒を全国各地へ販売するために、地域外部の酒問屋や酒小売店とシステムを構築する。

d 他地域との競争および協調

例:北海道の各市町村の建設している工業団地は競争関係にある一方、協調して北海道の立地の魅力を高める努力、例えば、千歳空港の国際貨物空港化などを推進する。

(2) 地域戦略の実施手順

a 地域の目標設定

例:地域社会の所得水準を上げる

b 地域の外部環境分析と内部環境分析

例:米価の低下という外部環境の要因と、農業従事者の高齢化という内部環境要因を認識する。

c 目標と環境のギャップ解消の実行案(戦術)を考える

例:高い価格で売れる米を作り、若い人たちが就農しやすい環境を作る。

d 組織化

例:農業生産法人や勉強会などを作って組織化する。

e 実行

f 結果の評価および将来へのフィードバック

(3) 地域間競争と競争優位

地域間競争に勝つための競争優位を構築するためには、地域内の経営資源を有効に活用し、他の地域では提供できない独自の価値を産出する。

4.地域の経営とコミュニティビジネス
(1) 地域にとってのコミュニティビジネスの意義

a 経済効果・・・雇用の場、付加価値の創造、地域外からの収入などが期待できる。

b 地域課題の解決・・・地域の抱える課題を解決することで、地域住民の満足度が高まる。

(2) 地域でコミュニティビジネスを育てる方法

a 啓発・・・コミュニティビジネスを起業したいという人々を育てる啓発教育が必要になる。

b 起業家支援・・・コミュニティビジネスで起業をしたい人に対して経営上のアドバイス、経営資源の支援、地方自治体の委託事業や優先購入などの売上の支援を行う。

(3) 地域戦略としてのコミュニティビジネス振興

a コミュニティビジネスの地域課題解決によって地域住民の満足度向上。

b 地域のスモールビジネスの振興による、雇用機会の増大、税収の増加、経済を活性化する。ITやバイオのベンチャーも良いが、産業として経済価値を生み出すためにはリスクがある。また、そうした産業に直接的な恩恵を受ける人は限られている。それに比べて、コミュニティビジネスは参入障壁が低く、比較的早く成果が出る。

(4) コミュニティビジネスのクラスター

一つのコミュニティビジネスを房として、そこから様々なコミュニティビジネスを創出していく。コミュニティビジネスに関する先進地域の山口県や兵庫県の地域戦略は、地域にコミュニティビジネスのプラットフォームを作り、そこから多くのコミュニティビジネスを創出していく戦略である。