最終話後半            10 最終話前半 最終話後半
1.A New Direction of All Around Management

(1) あらすじ

久保田は自分の地位を賭けて九十九里の工場を救う決心を固める。久保田は定例役員会で「サバカレー」の件を社長へ直訴するが、失敗に終わり会社を去ることになった。そして、久保田は真の仲間たちの元へ再び戻って来た…

(2) 用語解説

a. 定例役員会…月1回程度で行われる取締役会。株主の選出した代表による経営の最高意思決定機関とされるが、伍代物産ぐらいの大企業だと取締役の数が多いから形式的な報告会になりやすい。重要な戦略的意思決定は、取締役でも上級の常務取締役以上で行う常務会で行うことが多い。執行役員制度などを設けて取締役の数を減らすのが、最近の日本企業のトレンド。取締役で一番偉いのが代表取締役、その次が専務取締役(倉田がそう)、常務取締役、取締役と続く。長峰も久保田も平の取締役。

b. 議事録から削除する…その発言が行われなかったものとして扱われる。久保田が行った直訴を社長は無視をする姿勢を明らかにしたのだ。

c. 取締役解任動議…裁決されても株主総会で承認を取る必要性あり


(3)ドラマのポイント

a. なぜ久保田は自分の身分を賭けてまでも工場を救おうとしたのか?

彼女を本社へ返してくれた工場の従業員に対して、自分が工場独立の契約書を十分読まなかったからこのような事態を招いたという後悔がある。加えて、「工場の人たちは自分たちの手で作ったサバカレーを私のために手放した。あいつら、まだ仲間なの」という久保田の言葉から分かるように、工場の主力製品であるサバカレーのレシピを渡してくれたかっての仲間を助けるため、彼女を想う工場従業員の気持ちに応えるために、彼女は役員の座を棒に振る決意を固めた。彼女自身も伍代物産のやり方に憤りを感じており、辞めてもいいと思っていたところもあるかもしれない。

b. なぜ岩佐まで久保田の手助けをしたのか?

昔の恋人だからかっての恋人が自分の身分を賭けてまでも守ろうとしている姿に、気持ちが動かされたのであろう。また、岩佐は彼女と工場従業員の信頼の絆をうらやましかったのかもしれない。きっと岩佐は長峰室長にたて突いたということで左遷されるのだろうな。

c. 「初めっから住む場所が違うんだよ、あの人と俺とでは」という三国の言葉に彼のどんな心情が隠されているか?

あきらめきれない久保田への気持ちを、あきらめようとして自分自身を納得させようとしている。

d. なぜ従業員達はこだわっていた野球をつまらない、と思ったのか?

久保田がいなくなり、仲間全員で網元チームに勝つという共通の目的を追求できないから、いまいち乗り切れないのかもしれない。「(久保田と過ごした)今年の夏がおもしろすぎた」としじみがしみじみ言っているように、久保田が欠けたことで平凡な日々が戻ってしまい、何もかもつまらない気持ちもあろう。

e. 「売る缶詰がなくても、私たちにはチームワークがある」

九十九里浜水産缶詰工場の競争優位の源泉であるcore competence(中核能力)は、サバカレーという製品ではなく、チームワークである。core competenceを失わなければ、組織の再生は十分可能だ。

f. 久保田が戻ってきて、なぜみんなはやる気を取り戻したのか?

やはり、リーダーはしじみでもなく、三国でもない。久保田なのだ。そのリーダーが戻ってきて、力強く「私たちにはチームワークがある。今は9回の表。ここを踏ん張れば、逆転のチャンスがある」というビジョンを打ち出したのだから、みんなのやる気は高まるのは当然。

g. 久保田が過ごしたひと夏は、彼女にとってなんだったのであるか?

彼女の価値観を変え、仕事を変え、付き合う仲間も変えた。「初めてよ、こんなに明日が来るのが楽しみなんて。みんなに会えて良かった。」とそこまで彼女に言わせたひと夏は、人生で最悪と最良を経験した、忘れられない夏に違いない。

2.21世紀の組織経営の方向性とは?

(1) 組織の概念

a. プラットフォーム型組織(伍代物産)・・・組織はメンバーに対して仕事を通じて能力を発揮する場を与える→実力・成果主義+高い職務志向(組織は仕事の場である)+高い流動性(組織が要求する成果を出せなければくびにされることもある)+高い個人の自律性と能力の要求(自分で考え行動し成果を出せないといけない)

b. コミュニティー型組織(九十九里浜水産缶詰工場)…組織はメンバーの個人人格を含め受入れて仕事以外での関係をも重視する→価値観共有を重視+チームワーク+同僚でなく仲間意識+メンバー同士の強い結びつき+共に成長していく

(2) 組織の境界の変化…プラットフォーム型組織によく見られるのが外部の組織を有効に活用していくこと。外部組織との関係が強くなれば、組織の境界が拡大したり、あいまいになっていく。

(3)ストックからフロー重視へ…環境変化が激しいので資産を抱える従来型の経営から陳腐化しやすかったり蓄積に時間のかかる資産を持たない経営へ転換しつつある。その結果、外部の組織へ事業の一部を委託するアウトソーシング、必要な人材を必要なときに使う派遣社員や契約社員の活用、資産でなくキャッシュフローを重視するなど、旧来の経営手法が変わってきた。

(4) 知識創造の経営

a. 組織の革新の源泉は知識創造

b. 知識創造型の組織を作る

c. 学習する組織…組織メンバーの学習を促進し、メンバーが学習した知識を組織の能力へ変換する。

(5) 管理からリードの経営

a. 管理型の経営…目標を与えて目標達成のために罰則や報酬でコントロールする

b. リード型の経営…優秀な人材を採用してメンバーの能力を育成しながら組織の使命達成へ導いていく

c. 個人の業績と組織の業績をリンクさせて動機づけする

(6) リーダーシップ

a. 組織の特性によるリーダーシップの指向性の変化

b. 環境の特性によるリーダーシップの指向性の変化

c. 21世紀のリーダーに求められるもの→今の久保田のような人なのか?

(7) スピード時代の組織像

a. 大は小を兼ねない…組織規模の小型化+分権型組織

b. 環境変化に応じて変化していく有機的構造の組織…組織メンバーが自律的に行動した結果、組織が進化していく自己組織化。

c. 意思決定プロセスの短縮化

d. 自律的人材の採用と育成

(8) 会社人間からの脱皮

a. コンピテンシー(Competency)の強化

b. 起業家精神を持つ

c. 仕事も大切だけれど自分の生活も大切に

(9) チームによる経営

a. 小人数組織チームの有効性

b. チーム編成の原理…価値観を共有しやすい心理的同質性を持っていると同時に、仲間の欠けている部分を補える補完性を持っているメンバーでチームを編成していく。

(10) 組織統合のメカニズムの変化

a. 組織統合のメカニズム…組織のアイデンティティー(使命・ビジョン・価値観)+リーダーシップ(権限・管理・支援・メンバーへの理解と誘因)+システム(経営戦略・情報システム+人事システム+財務コントロール+組織構造)+日常的な業務プロセス(手続き・目標・評価尺度・計画)+人間関係(チームワーク+人的ネットワーク)

b. ハードの要素による統合に加えてソフトの要素による統合

c. 組織統合の方法によって組織の特性は変わっていく

(11) 価値観・組織文化を重視するソフト重視の経営

a. 組織で共有される価値観・組織文化が経営へ強く影響

b. 組織メンバーを動機づけるような価値観・組織文化の生成

c. 競争優位構築のための見えざる資産としての価値観・組織文化の価値

d. 社会から支持される価値観・組織文化を作り上げる

3.あなただったらどう工場を立て直すか?

(1) 久保田のリーダーシップを分析する

彼女は職務指向が強く、戦略・権限・評価で組織を統合しようとしたリーダーであった。しかし、工場に来て、価値観やチームワークの重要性に気が付いてリーダーシップのスタイルを変えていった。

(2) あなたなら九十九里浜水産缶詰工場をどのように立て直しただろうか?

(河西流再建策)

a. 組織の内部分析…組織のメンバーが何を考え、行動しているか。そして、彼らはどんな能力を持っているのかを知る。それと共に他の経営資源や組織能力をチェックし、組織の強みと弱みを見つける。

b. ビジョンを示す…組織に置かれている環境がどう変化するかを予想し、将来の環境に適合し組織メンバーを動機づけるようなビジョンを創造。

c. 情報の開示…組織メンバーに現状を知ってもらうことは、意識改革にとって重要。また、協力を得やすくなる。

d. コミュニケーションを取り危機の認識、価値観、使命の共有を図る

e. 人を大切にするリーダーシップ…組織を活かすも殺すも人間次第。よって組織メンバーのやりがいを作り出し、自己実現欲求を満足させる。

f. 仕事への明確な目標を設定する…ただ働け、とか言ってもだめ。具体的な目標を与えてあげた方がメンバーにとってはやりやすい。また、そのための支援を惜しまない。

g. メンバーを動機づけし、職務遂行のための能力を育成、支援する

h. リストラ…素早く業績を回復しようとすればリストラもやむをえない。ただし、手順がある。九十九里浜水産缶詰工場の場合は、パートをまず解雇すべきだった。最後の方では9人の従業員だけで缶詰が作れていたのだから、パート従業員が本当に必要だったのか。次に資産の売却を考える。正社員の雇用に関しては最後まで守る。

4.コーチ

(1) 社会の複雑化によって手助けを必要としている人が増加している管理者ではないコーチの必要性

(2) コーチング・・・人を育てる手法

a. 相手を理解する

b. 期待を伝える

c. 合意の上で目標を立てる

d. 質問を重ねて相手の考え方や気持ちを整理させたり、明確にする。

e. 命令・指示はしない

f. 何か解答を見出したら褒める

g. 褒めた後に改善点を助言する

〜価値観の共有による経営〜「コーチ」を事例に〜