第6話            10 最終話前半 最終話後半
1.動機づけのリーダーシップ

(1) あらすじ

金融業者が、借金をしたまま夜逃げした山田勉太郎を探しに工場へやって来た。一方、赤字減らしにやっきになる久保田は在庫を処分し換金しようとするが、帳簿上の在庫と実際の在庫が食い違っていることに気がつき、不正の臭いを感じる。どうやら夜逃げした従業員が缶詰を横領している可能性があるのだ。夜逃げした男は実は剣(村田)だった。とうとう金融業者は剣を見つけ出し、借金1200万円を返済しろと迫り、久保田へ連帯保証人になるよう言い寄る。久保田は剣を守るのか?


(2)用語解説

a. 連帯保証人…債務に対して連帯して責任を負う保証人。債務が履行されない場合、債権者は直接連帯保証人に債務履行を要求できる。そのため、決して連帯保証人になってはならない。

b. 横領…金を私的に使い込み組織に対して背任すること

c. 差し押さえ…借金の担保(財産)を借金元に取られること

(3)ドラマのポイント

a. 在庫商品の横流しという不正に対する久保田の対処方法は正しいか?

在庫の横流しは、泥棒であり、犯罪行為である。工場長としては当然、犯人を突き止め、損害を補償させなくてはならない。こうした行為が行われるということは、組織の規律が緩んでいる証拠で、規律維持のためにも当事者とその管理者への厳しい処分は重要である。その一方で、こうした犯罪行為の再発を防止するため、チェック・システムを作り上げなくてはならない。今回の一件は、剣と玄さんの処分は一切なかったが、何らかのペナルティー、例えば、グランド整備などを形ばかりでも与えて、会社の中でやって良いことと悪いことを明確にした方が良かった。

b. なぜ私的借金で悩む剣を他の従業員は助けようとしたのか?

「痛いです、仲間を失うのは自分の体を切られるみたいで・・・」という三国の言葉に代表されるように、剣は他の従業員にとって大切な欠かさざるを得ない仲間なのである。工場は単なる価値産出のための協働システムではなく、価値観を共有しあっているメンバーの運命共同体的性格を持っている。この組織においてメンバーは取り替えのきく部品ではなく、唯一無二の存在の仲間である。

c. なぜ久保田は剣の借金肩代わりというさらに赤字を増やすような意思決定をしたのか?

以前の久保田のように経済合理性重視ではこうした意思決定を行わなかったであろう。実際に、当初は剣と玄さんはくびにすると言っていた。しかしながら、、すべてを棄ててきた剣にとって工場は唯一の居場所で、久保田と相通ずるものを感じた。他の従業員も剣のために殺人までを考えるほど剣との結びつきが強いことも知った。久保田の中で強い仲間意識で結びついた従業員たちに惹かれるところがあったのだろう。そうしたことが、仲間を大切にするという組織の価値観を尊重する意思決定につながった。また、仲間を守るという彼女の意思決定は、従業員たちの生活の安定という低次元欲求を満たすと共に、仲間を大切にするという高次元欲求を満たし、強力な動機付けにつながると考えられる。原材料費が下がることと、売上が増えるというビジネスにおける抜本的な解決策を取らない限り、剣の借金返済肩代わりによる赤字が月25万円増えても大したことがないというやけになっている部分もあるかも知れない。それよりも剣を救うことによって、一人の人間として、仲間として当然の意思決定で、一方で、それが従業員の志気向上につながるという冷静な判断があったかもしれない。剣が欠けると野球が出来なくなる、というのは野球の勝利による赤字減らしの意味があると共に、彼女の照れ隠しの意味合いが強いと思う。

d. 「工場長は仮の姿、コーチって呼んで」という久保田の気持ちは?

監督とコーチ、どこが違うのか? この問に関しては後で「コーチ型リーダーシップ」で詳しく説明するが、コーチはあくまでも主役である選手の支援と育成に徹する役割である。久保田は工場長として単に管理をするのではなく、主役である工場の従業員に頑張ってもらうために支援をしようとしているのであろう。

e. この事件を契機に従業員における久保田の役割がどう変化したか?

今までは、よそ者の経営者(工場長)という意識を持って反発していた従業員もいた。彼女も外部の人間として工場を再建しようとしていた。しかしながら、今回の事件で従業員たちは久保田を仲間とみなし、彼女もみんなの仲間になって一緒に頑張ろうという気持ちになった。そのため、リーダーシップの取り方が変わっていくと考えられる。

f. 剣の借金を肩代わりしたことで従業員に対してどのような動機づけが行われたか?

前述したように従業員を守るということで、従業員たちの低次元欲求(衛生要因)が満たされたが、それ以上に社会的欲求というより高い次元の欲求を満たすことになり、次の尊厳欲求、自己実現欲求(動機付け要因)を目指すことにつながると期待される。剣ちゃんは自分を直接的に救ってくれた久保田に対して絶対的な忠誠心を持ち、久保田から認められたい(尊厳欲求)と頑張るであろう。また、重要なのは、玄さんや直人のような久保田に反発していた従業員たちからも久保田は信頼を勝ち得たことである。リーダーはメンバーから信頼され、良好なコミュニケーションができていないと、組織は有効に機能しないから、今回の事件は今後の組織にとってきわめて重要な契機になる。

g. なぜ、久保田は三国に過去を打ち明けたのか?

剣が自分の過去を話し、救われたのを見て、久保田の心のわだかまりの原点を話すことで楽になりたかったのであろう。そこで、経営者と従業員という立場を超えて、対等な仲間として彼女の悩みを打ち明けたのではないか。どんなに強い人間でも弱さを持っている。ただし、君たちが社会に出たら、悩みを打ち明ける信頼できる人間は社外に持った法が良いと思う。社内の人間にはあまり弱点を見せないほうがいいというのが、厳しい外資系金融機関で働いていた僕の

2.動機づけ(Motivation)の理論〜欲求説

(1) 人はなぜ働くのか?…受動的(義務・責任・罰則)+主体的(誘因に反応)

(2) 受動的勤労…組織における権限受容(義務・責任・罰則)によって働く

(3) 主体的勤労…誘因に動機づけられ働く意欲が高まる(誘因)

(4) 動機づけ…人(組織のメンバー)を(組織)目的に向かってやる気にさせて貢献させる

(5) 人間関係論(メイヨーらのホーソン実験)…人間関係の善し悪しが労働の動機づけに なる

1920年代、米国のGEホーソン工場で、作業環境と労働生産性の実験が行われた。ホーソン工場の工場長が照明の明るさを暗くしたり、明るくしたりしたが、照度には関係なく生産性が上がった。メイヨーらは工場長が作業環境に配慮したと従業員が受け取り、それが動機づけになって生産性が上昇したのではないかという結論を得た。

(6) 欲求階層説(マズロー)…人間の欲求は階層的な序列があり、生理的欲求や安全欲求という低次元欲求が満たされると、社会的欲求、尊厳欲求、自己実現欲求という高次元欲求へ順次欲求の対象が変化していく。こうした欲求の階層説に対して、欲求に階層はないという反論がある。


(7) XY理論(マグレガー)

a. X理論の人間観…人間は労働嫌いで責任を取りたがらない→命令や強制で管理し、目標が達成できなければ懲罰を行う

b. Y理論の人間観…人間は進んで働きたがり責任を与えられれば進んで問題解決に当たる→自主管理を中心に動機づけを行う

労働者が高次元欲求を持っているならばY理論の方が有効である


(8) 未成熟−成熟理論(アージリス)…人間は成熟するにしたがって高次元欲求が強くなり、そうした欲求を満たすような管理手法を取る自主管理や目標管理(Management By Objective)を重視

(9) 衛生・動機づけ理論(ハーズバーグ)

a. 動機づけ要因…成長したいという欲求(高次元欲求)を満たすもので動機づけになる=高業績の達成+高度な仕事+昇進+高い評価→職務拡大と職務充実で対応

b. 衛生要因…不満の発生を予防(低次元欲求を満たす)する=職場環境+人間関係+監督方法

両方の要因に目を向けて管理を行っていかねばならない。動機づけのための職務管理として以下の2つが代表的手法である。


c. 職務拡大=仕事の範囲を広げることで能力を開発してあげる

d. 職務充実=責任を与えて仕事の中で自己管理させる

マグレガー、アージリス、ハーズバーグらの理論の前提になっているのは、マズローの欲求階層説である。

3.動機づけ(Motivation)の理論〜過程説

(1) 公平説

(2) 強化説

(3)

(4) 期待理論(ポーター&ローラー)…努力、成果、報酬の3要素がうまく結びつくことで、期待が形成され、それが誘因として機能する。

久保田が本社で課長として働いていていたとき、部下に命令すれば部下はその通り働いた。そのため、彼女は部下の動機づけを考える必要はなかった。しかし、工場へ左遷され一ヶ月だけの工場長として着任したため、従業員は久保田の工場長としての権限をあまり受容しなかったといえる。こういう状況では、命令ではなく、組織目的への動機づけを行う必要が出てきたのである。動機づけは、従業員達が共有する価値観、仲間を大切にする、を尊重することから始まったのである。

〜価値観の共有による経営〜「コーチ」を事例に〜