第10話            10 最終話前半 最終話後半
1.リーダーシップとは?

(1) あらすじ

工場には味が不味くなったという理由で「サバカレー」がどんどん返品され、一方で出荷の要請をどうにか待ってもらっている。三国、しじみ、久保田の三角関係から町を出たしじみを迎えにいくため、工場の操業は一時ストップしているのだ。久保田と三国はしじみを説得し、直人(井ノ原)ともどもしじみは工場へ帰ってくる。みんなが再び工場に揃い、再び缶詰が出荷されるようになった。「サバカレー」のヒット振りを目の当たりにした長峰監査室長は、生産規模の少ない九十九里の工場からタイの工場へ生産を移管しようと試みる。しかしながら、手作業を中心とした三国を始めとする熟練技能に頼っているゆえに生産の移管が困難なため、長峰は工場側の条件を飲まざるを得なかった。そんな時、久保田は彼女を左遷した専務から呼ばれた。専務は工場再建の功績を認め、久保田を本社食料部統括役員として迎えたいという意向を伝える。久保田の気持ちは揺らぎ…

(2) 用語解説

a. 戸籍…採用時に採用予定者へ戸籍を要求するのは、差別につながるため行えない。しかしながら、一部の企業では身元調査を行う場合がある。

b. 出向…大企業では中間管理職時に子会社へ経営陣として出向させ、経営者としての資質や能力を試すことがある


(3)ドラマのポイント

a. 返品が相次いでいる中、工場長の意思決定を支持する玄さん、以前の久保田への感情とどう変わったのか?

以前の玄さんは、反久保田の先鋒であったが、彼女の真意が分かったため、一転して彼女のやり方や考え方を支持するようになった。悪い人間関係は、誤解から生じることが多い。人間関係が悪い人との関係を良好にするための一つの方法が、久保田のように自分の想いを正直に伝え、相手の誤解を解くことである。

b. 「歌えるスナック」で久保田が一人コーヒーを飲んでいる、なぜ?

以前の久保田は、あのスナックを嫌っていたのに。久保田は多分、コーヒー好きで、コーヒーを飲みながら経営のことを考えたくてスナックに来たのだろう。工場にいたら従業員が「どうする?」とうるさくいうかもしれない。このスナックならば話したくないときは話さなければいいし、話したくなれば伸郎と話せばいい。

c. なぜ剣ちゃんが、まず、しじみを説得しようとしたのか?

しじみは結婚問題、三国への片思いから町を出たので、三国が恋する久保田はこの問題の当事者であるから、自分から話を切り出しにくい。そして、しじみの恋敵である久保田が話の口火を切ると、感情的になっているしじみが工場へ戻らないという最終結論が一気にでてしまい、話がそれ以上進まなくなる可能性がある。そこで、剣ちゃん(彼と三国と久保田も三角関係だが)が口火を切ることで、最終結論がすぐにでないようにし、しじみの心情に関する情報を収集できる。後は剣ちゃんの性格や、結構しじみにはフォローを入れてきた経緯もあるから剣ちゃんが話を進めていったと思われる。

d. しじみ、三国、工場長の三角関係、なぜ社内恋愛はまずいのか?

組織というのは組織メンバーの協働によって組織の使命や目標を達成しないといけない。ところが、組織のメンバー間で恋愛は、そうした組織の使命達成とは関係ないことであり、むしろ組織メンバーの協働を阻害する可能性がある。長時間一緒に同じ目標や価値観を共有して生活することで、恋愛感情が生まれやすい。そこで、恋愛と仕事が互いに影響を及ぼさないようにすることが望まれるが、実際は難しい。

e. 「工場長に納まっていたくない、東京でまた勝負をしたい」久保田の本心なのか?

1割ぐらいは本音であろうが、久保田はしじみを説得しようとして言ったと考えられる。「私は一度町を出た人間。工場へ戻ってきたのはみんなをバラバラにしてしまったから。」と久保田は言っている。確かにみんなで再び缶詰を生産できるとき、すごく喜んでいたが、そのみんなの中に彼女も当然入っていた。三国にしじみを探させにいくことに対して反対していた従業員へ「仲間が1人でも欠けたら、意味がない」とまで言い切ったが、久保田も工場から去ったら、この工場のアイデンティティは失われる。そして、久保田はしじみの問題が結婚や三国だけのことではなく、工場の仕事における存在意義の小ささから悩んでいることを見抜き、「缶詰は私の力や経営努力で売れたのではなく、缶詰の味で売れた。工場長は私じゃなくて良い。しじみさんに経営を任せたい」と、しじみが工場の中で重要な役割を果たせるようにする提案までしている。その発言の裏には、久保田はまだ自分がよそ者という意識を持っているようで、よそ者の自分が身を引くことで、工場従業員が持っているチームワークの良さを維持しようとしたのである。それに対して剣ちゃんが「よそ者なんて言わないでください。あなたも大切な仲間なんだから。」と言い、久保田はうれしさのあまり剣ちゃんに抱きついた。三国すらまだ久保田を抱きしめたことすらないのに、剣ちゃんはおいしい。

f. しじみはどう変わったのか?

主任への愛が進展しないと分かった以上、彼女は傷ついた心を癒すため新しい目標を探す必要があった。今の状況では、彼女の新しい目標は仕事になる。しかし、しじみは今まで工場の中で仕事へ直接貢献していない、という引け目があったようだ。組織に所属すると、マズローの欲求階層説でも説明できるように、自分が組織に貢献できていない状態を好ましいと思わない。そこで、彼女は経営の勉強を始めたのであろう。

g. なぜ「サバカレー」の生産移管ができないのか?

サバカレーの生産が暗黙知を基盤にした三国や他の従業員のスキルに依存していたから、形式知へ変換できず、他の工場で同じ物を作ることが不可能なのだ。組織の競争優位が、こうした暗黙知に由来する場合、そして組織全体に由来する場合、他の組織は模倣できず、競争優位は持続しやすいといえる。

h. サバカレーはなぜ売れたのか、サバカレーが売れて工場の経営はどのように改善したか?

日本人は世界でインド人に次ぐカレー好き(でまかせ)なので、カレー味の商品は売れやすい。また、健康ブームや魚の成分で頭が良くなるブームが後押しして、売れた。ただし、既に他社が類似製品を出していたかも知れないが、サバの味がしっかり残りながら、魚臭さがなく、魚嫌いの久保田も受け入れることができた味の良さは他社製品を上回る売上に結びついたと思われる。また、「機械で作ったんじゃないから売れた」という直人の意見も一理あるが、手作りを強調して、限定生産すれば差別化がもっとできたかもしれない。サバカレーのヒットで、1日の生産量1万缶すべてが出荷され、缶詰の出荷価格は200円程度と推定されるから、1日の売上は200万円。損益分岐点売上高が剣の借金肩代わりや網元への謝礼などがあって多分、800万円程度になっていると思われるが、パートの従業員を使わなくなったため、変動費は下がっているはず。その結果、月25日の工場稼働を前提に、月商は5,000万円、売上原価と一般管理費を合わせた費用が3,000万円程度。月の営業利益は2,000万円で累積損失を1ヶ月で解消できるくらいの高収益企業へ九十九里浜水産缶詰工場は変身した。

i. 一度は伍代物産へ辞表を提出した久保田に対して、倉田専務は本社へ重役待遇で復帰して欲しいと依頼したのか?

まず、再建が困難とされていた子会社を再建した経営手腕を評価された。倉田は久保田に対して「目を覚ましなさい」と以前一喝した経緯があり、彼女の能力は評価しながらも彼女の仕事のやり方やパーソナリティに未熟なところを倉田は見抜いていたようだ。そこで、久保田を子会社の経営者として苦労をさせ、成長させようという意図もあったのだ。そして、倉田の意図通り、彼女は見事経営者としての責務を果たした。そんな彼女を本社に戻し、倉田は自分の持ち駒に使いたいのであろう。実際に大企業の中にはキャリア開発の一環として、中間管理職を子会社の経営者へ出向させる人事をするところもある。その一方で、倉田は久保田を本社に戻し、九十九里浜水産缶詰工場からヒット商品であるサバカレーを取り上げる魂胆もあったのだが、それはまた別の話

2.リーダーシップとは何か

(1) リーダーの役割

a. Vision…組織の夢、使命、価値観を含んだ未来像を創造し、メンバーへの共有をはかる。メンバーをワクワクさせ、実利もともない、社会に認められるビジョンであることを留意する必要がある。

b. Leading…組織のvisionの実現に向かって意思決定し、実行組織を作る。組織メンバーを実行へ向かわせる。

c. Motivating…実行するために葛藤などを処理しながら組織のメンバーの行動や態度を統合していく。とにかくメンバーを組織のビジョン達成へやる気にさせないとダメ。

(2) リーダーの種類

組織という場合、通常は制度として確立したものを指す。これが公式組織である。しかし、公式組織とは別に、組織メンバーの自律性によって生じる、制度化されない組織がある。それが非公式組織である。

a. 公式組織のリーダー=久保田工場長

公式組織は公式な方針や規則によって定められたメンバーの相互作用様式であり、経済合理性で規定された組織である。久保田は親会社から工場長(リーダー)として正式に派遣され、生産手続きでも代表印を捺印していたので、多分、登記上でも代表取締役に久保田がなっていると思われる。

b. 非公式組織のリーダー=三国主任や玄さん

非公式組織は仕事外の人間関係による相互作用様式であり、共通の価値観や感情によって規定される組織である。以前の工場の状態では久保田を除く正社員全員が非公式組織に属していたといえる。その象徴が野球チーム「マカレル」である。そうした非公式組織でリーダーシップを取るのが三国であり、時には玄さんであったりする。正式にリーダーが決められているのではないので、そのへんは柔軟である。非公式組織のリーダーは、時には公式組織の衝突したり、妥協したり、協働したりする。非公式組織のリーダーを公式組織のリーダーが、うまくコントロール出来るようにしたり、非公式組織のリーダーから支持を取り付けることが肝要である。
このドラマでは三国がいいひとなので良かったが、非公式組織のリーダーの影響が大きいと、組織使命の達成を阻害することが多々ある。知人の実話であるが、あるファストフード店の経営を立て直すために知人は本部から派遣された(公式組織のリーダー)が、そこを取り仕切る古参のフリーター(非公式組織のリーダー)と衝突し、フリーターの邪魔により再建が思うように進まなかった。結局、フリーターを解雇し、再建を進めたそうだ。うまくそのフリーターをコントロールできれば良かったのだが、そう簡単にはいかない。ドラマでは非公式組織の三国の人の良さと、彼が久保田に惹かれており、彼女を理解しようとしてくれたことが幸いしたと思われる。

(3) リーダーシップ…命令、説得、助言、示唆などの権限を行使して組織メンバーの貢献意欲を強化し効率的な組織の共通目的達成をはかる

(4) リーダーシップの目標…経営資源(人・物・金・情報)を有効活用による効率的な組織目的達成

(5) リーダーシップはどこから生まれるか?

a. 個人の能力、知識、パーソナリティーによるもの・・・三国の場合、彼の人の良さが彼を非公式組織のリーダーへ就かせた。

b. 制度によるもの…会社の上下関係

c. 職能によるもの…サッカーのゴールキーパーから発せられる守備の命令のようなもの

(6) リーダーシップはメンバーに受け入れられないと有効ではない

初期の久保田のリーダーシップは従業員からあまり受け入れられず、再建が進まなかった。しかし、信頼関係が両者に生まれ、久保田のリーダーシップが従業員に受け入れられると、組織として機能するようになった。

(7) 葛藤(コンフリクト)の解決・準解決

a. 葛藤=合理的な意思決定のできない状況を解消するのもリーダーの役割の一つ…しじみの家出による工場の生産休止

b. 解決=葛藤の原因を完全に除去し解決する…しじみが三国との恋をあきらめ仕事をするために工場へ戻る

c. 準解決=部分的な解決をはかったり、妥協して解決する…しじみの結婚問題だけを解決するとか、久保田が工場を去るような妥協した解決方法

3.状況適応型リーダーシップの理論

(1) リーダーシップのコンティンジェンシー理論=リーダーシップのやり方を変化させる

(2) リーダーシップのスタイルを状況(環境変化、求められる意思決定の速度等)に適合させて有効なリーダーシップを発揮する

(3) リーダーシップのスタイルを組織メンバーの能力ややる気に適合させて有効なリーダーシップを発揮する

a. 環境−組織メンバーの成熟度モデル(図はN.A)

b. 仕事−対人関係モデル(図はN.A)

c. 指示−支援モデル(図はN.A)

d. ハーシー&ブランチャードのモデル

(4) 複数のリーダーが組織の置かれている状況や組織メンバーの状態に応じて中心的にリーダーシップを取る。これは1人のリーダーでは課業志向か人間志向といったどちらかの要素に偏ったリーダーシップを取り、動機づけに失敗する可能性があるので、複数の人間が状況に応じてリーダーシップを取るのだ。

a. 久保田=工場の仕事面でのリーダー・・・課業志向のリーダーシップによって職務能力の低い従業員を動機づける。当初はまったく機能しなかったが、人間志向のリーダーシップの要素を取り入れることで、従業員が彼女を受け入れられるようになった。

b. 三国=工場の人間関係面でのリーダー・・・人間志向のリーダーシップで、仕事にやる気のでない従業員を動機づけ、仲間を大切にするという彼の価値観を工場の組織文化として根付かせた。

(5) リーダーシップのパス−ゴール理論…リーダーは最終的な目標(goal)を設定し、その目標への到達経路(path)を示さなければならない。

〜価値観の共有による経営〜「コーチ」を事例に〜