第4話            10 最終話前半 最終話後半
1.意思決定 

(1) あらすじ

久保田はさばの仕入に関して不満を持ち、仕入れ値を交渉して網元の望月を怒らせてしまう。久保田はミャンマーからさばをキロ当たり40円安く輸入する契約を結び、望月からのさばの購入を打ち切る事にした。ところが、久保田の邪魔をする竹中五月(高島)が久保田の取引を一方的にキャンセルしてしまう。サバは手に入らず、缶詰は生産できなくなる。久保田は望月の所へ謝りに行き、取引の再開を願うが…

(2)ドラマのポイント

a. 自分の扱っている商品を嫌う久保田の態度は?

自社で扱う商品に対して愛情が持てないというのは、経営者としては失格。自社の扱う商品、自社の経営資源、自社の属する社会へネガティブな態度を取ってもメリットはなし。もっとも久保田は好きでもない工場へ出向させられたのだから、しょうがないかもしれないが…。ただ、経営者としては利害関係者には愛想を振りまき、自社の製品に対して愛着を持たなくてはならない。久保田はエリートだったかもしれないが、結構、自分の価値観とビジネスを混同する子供っぽいところがある。

b. 久保田が今回の失敗を犯した主な理由は?

コスト削減のために、仕入れ値を交渉するのは経営者としては当然。より仕入れ値の安い原料を調達するのも適切な判断と言えよう。しかし、久保田のやり方自体には問題があった。彼女は左遷させられた事件から何も学んでいないのか?まず、久保田は彼女の価値観とビジネスを区別して仕事をしていなかった。あのような地域社会や魚を嫌う態度を網元にとっても事態が変わるわけではない。網元の言うように、日本の社会はビジネスライクに割り切って仕事をするよりも、人間関係を重視してビジネスをしていく風潮が強い。彼女の交渉の仕方や、間違いを素直に謝れないプライドは、経営者としての能力に欠けるかもしれない。また、短時間で赤字解消のため、あせるのもわからないではないが、仕入先変更の意思決定は拙速。特に仕入先を全面的に変更するのはリスクが大きすぎる。もっと慎重な決定と実行が必要だった。あとは、非公式な手続きで伍代物産からサバを仕入れようとしたのもまずかった。正式な手続きを取った取引ならば、服務規定違反というようないいがかりをつけられずにすんだ。また、他の商社から輸入することも可能だったかもしれない。

c. 久保田は岩佐に何を求めたのか?

孤軍奮闘の彼女は、唯一の味方である岩佐に支えて欲しい気持ちがあるのだろう。しかし、岩佐とは利害が反する立場にあるため、それがつらい。岩佐は久保田のキャリアを傷つけないことと彼女との利害対立を避けるため、転職を久保田に勧めた。職場の同僚同士の恋愛は、お互いの状況を理解しやすいものの、こうしたことが起こりやすい。個人的には職場とは関係ない恋人の方が好ましいと思う。ところで君が岩佐なら、久保田(サバの味噌煮)を選ぶ?それとも竹中(子羊のロースト)?

d.しじみはなぜ恐い父親に盾をついてまで取引再開を願ったのか?

素晴らしい仲間のいる工場が大切だから。

e.久保田のミスを従業員によってリカバー、久保田の気持ちは?

今までろくでもない奴等と思っていた従業員達が、久保田の失敗を尻拭いしたことで、組織で仕事をする意味を知ったのでは。また、ひどい仕打ちをした相手の従業員たちが久保田を仲間として考えてくれていた事へのうれしさと、工場を再建できなければ工場閉鎖になうという秘密を持っている苦しさに悩んでいる。最終的にはサバが仕入れられたが、月60万円の赤字が増えたので、頭痛の種は増えてしまった。60万円の赤字に関しては網元への礼金が10万円の減益要因。サバの仕入れ値がキロ当たり150円から200円値上がり、月10tの仕入だから50万円の減益要因。

2.組織の中の意思決定

(1) 組織の中の意思決定とは?…組織の使命を達成するための合理的決断

(2) 意思決定のプロセス

情報活動
設計活動
選択活動
検討活動
認識された現状と組織目的とのギャップから問題を認識する段階 問題解決の代替案の探索 各代替案の評価と選択 行動した結果の検討、検討した結果は情報活動へフィードバック


(3) 意思決定へ影響を与えるもの

aとbの前提が意思決定へ強く影響する

a. 事実前提…客観的情報→例:市場成長率、市場シェア

例:久保田が意思決定する際の事実前提は、工場が月250万円の赤字をだしていること、1ヶ月で工場再建できなければ自分が責任を取らされて辞職しなくてはならないこと、などである。

b. 価値前提…意思決定の基盤になる価値観→例:売上重視、利益重視

例:久保田の価値前提は生活よりも仕事が大切、小さな工場の経営よりも伍代物産での仕事の方が価値がある、職務能力のない人間はクズ、田舎臭いものはダメ。

(4) 意思決定の種類

a.最適化意思決定…すべての情報を入手した上でのbestな結果をもたらす合理的決定(経済学の前提)

b.満足化意思決定…不完全な情報を基にした満足できる結果をもたらす制約的合理性の下での決定(経営学の前提)

満足のいく意思決定ができるまで、(2)の意思決定プロセスを使って意思決定する=逐次的意思決定

例:久保田は最初は人員削減でコスト削減を図ろうとしたが、結果として満足できる意思決定ではなかったため、再び意思決定し直して仕入れ値を下げるという決断を下した。今回の意思決定も満足のいくものではなかったため、3度目の正直で工場再建の意思決定をしなくてはならない。

(5) 意思決定の階層

経営者
戦略的意思決定 組織全体のビジョン、戦略の決定。非定型的意思決定が中心。
管理者
管理的意思決定 限定された範囲内で与えられた目標に対する非定型的と定型的決定。
一般従業員 業務的意思決定 限定された範囲内で与えられた目標に対する定型的意思決定が中心。

(6) 意思決定の対象による種類

a. 定型的意思決定…問題に対して解の決定パターンが決まっている、プログラム化された意思決定←数学的解析+シミュレーション+コンピュータ処理

例:網元へ10万円の礼金を渡す、玄さんの意思決定は、毎月行う、繰り返された定型的意思決定。

b. 非定型的意思決定…問題に対して解の決定パターンが決まっていない、非プログラム的であり、より高度な能力を必要とする意思決定←洞察力+経験+問題解決手法

例:網元への礼金とサバの仕入れ値の見直しをした久保田の意思決定は、頻繁には行わない非定型的意思決定。

(7) 久保田の意思決定分析

情報活動
設計活動
選択活動
検討活動
工場の決算書を見て、損益分岐点の高さが赤字の問題として認識する。 固定費の削減を目的として、人件費の削減代替案を従業員個人ごとに考える。 どの従業員をくびにするか、という代替案を皆の前で検討し、早川に決定する。 三国主任に平手打ちされ、人員削減に関して考え直す。情報活動へ
人員削減は抵抗が大きいが赤字を早急に解消。仕入が問題。 さばの仕入に関して、網元に仕入れ値を下げてもらうか、他から安いさばを仕入れる。 網元が仕入れ値を下げないと言ったので、ミャンマーからキロ100円で輸入。 陰謀により安いサバが仕入れられず、この意思決定は誤りと判断。
.3.リスク管理(Risk Management)

(1) リスクの種類

a. 経済的リスク(金利、為替、経済成長etc)

例:為替レートが円安になり、輸入サバの仕入れ価格が高くなる。

b. 政治的リスク(テロ、暴動、政策変更etc)

例:オーストラリアの牧場から安い牛肉を輸入しようとしたところ、民自党の平林議員から圧力を加えられる。

c. 技術的リスク(連続的革新、非連続的革新etc)

例:新しい缶詰生産技術が生まれ、九十九里浜水産缶詰工場の生産設備が一気に陳腐課する。

d. 文化的リスク(宗教、習慣、言語etc)

例:久保田は網元へ礼金を渡す習慣を許せず、止めてしまい、網元から反感を買った。

e. その他リスク(人口動態、自然災害、犯罪etc)

例:海がしけて漁に出られず、サバの価格が高騰する。

f. 社内管理リスク(PL訴訟、セクハラ、横領、火災、新規事業etc)

例:剣ちゃんが横領していることで工場の赤字幅が拡大。

(2) リスクのリターンによる分類

a. 純粋リスク…リターンがマイナスのみ→自然災害、火災etc

b. 投機リスク…技術変化、金融市場への投資、新規事業etc

(3) リスク管理

a. リスクの予想→b.リスクの未然防止→c.リスクへの対応→d.損失回収

           b'リスクのヘッジ

例:仕入先変更から生じるリスクを検討し、ミャンマーから輸入できなくなる、もしくはサバの到着が遅くなるリスク可能性を算定。リスクの未然防止のために、野川に発注状況を確認する、ミャンマーの仕入先へ確認するなどのキャンセル防止に務める。また、キャンセルされた場合に、他の商社から購入する、網元からの仕入ルートを確保しておくなどのリスクヘッジをしておく。

(4) リスクへの対応

a. リスクからの損失確認→b.新たな損失の回避→c.損失のリカバー

例:サバが仕入れられなくなったことから発生する損害の確認。サバの在庫がないときは、工場を臨時休業するなどして、従業員をムダに遊ばせ、給与を支払うなどのムダを避ける。サバが仕入れできない状態を収束するために、他の商社へ当たる、海外の漁業者へ直接交渉して仕入れる、など新たな損失を防ぐ努力をする。その上で、サバがなくて生産量が落ちた分を、休日返上などで増産に努める。

(5) 久保田のさば仕入れ先変更のやり方で何が不適切だったのか?

時間がないのは分かるが、リスクを考えずにいきなり全面的に仕入先を変えてしまった。リスクを考えていないから、リスクのヘッジ(保険)もしていなかった。取引先を変える場合、網元から購入するサバを少しずつ減らし、安い輸入サバを少しずつ増やしていくことでリスクを減じる。また、仕入先を常に複数に分散し、ヘッジする。

〜価値観の共有による経営〜「コーチ」を事例に〜