〜組織再生のマネジメント〜

「人生の勝負は、第二章から」

1話  2話  3話  4話  5話  6話  7話  8話  9話  10話  10話後半

第10回 チームという組織
第10話前半 「また会う日まで! それぞれの旅立ち」
(1) あらすじ

 ユナイト・ホテル・チェーンは株式会社クリオムから八ヶ岳高原ホテルを買収することに決定した。面川は総支配人、小池は総料理長として、売却後のホテルで働くことになる、とユナイト・ホテル・チェーンの買収責任者である沖は告げた。別居する妻祐子からその話を聞くが、一緒にホテルを建て直した従業員の雇用を守れない面川は辛い気持ちになる。翌日、沖がやって来て、面川と小池に対して、ユナイト・ホテル・チェーンに50%の報酬アップの好待遇をオファーする。面川はホテルの従業員を残して欲しい、と沖に頼むが、沖は従業員がユナイト・ホテル・チェーンのマニュアルを覚えるために1年はかかるから、という理由で拒絶する。面川は従業員が残れないなら一緒に辞めると言い、小池も面川に同調する。沖は二人に、ホテルマンとしての最高の条件を断るのか、と説得するが、面川と小池の考えは変わらない。面川から話を聞いた若月は、若い従業員を自分が説得するから、ホテルに残って欲しいと面川へ頼むが、面川の意思は堅かった。
 面川と若月の議論を聞き、従業員たちはホテルが売却され、全員解雇されることを初めて知る。面川が売却の話を従業員に黙っていたことに対して、石塚は面川を責める。しかし、面川が再就職を断ってまで従業員を残そうとしたことを小池が教え、残された日々を頑張ろうと関が呼びかけたことで従業員全員は納得する。
 面川がユナイト・ホテル・チェーンへの就職を断ったため、矢野クリオム社長がホテルに訪ねてくる。「このホテルの再建は成功だ。君は勝ったんだよ。」「いえ、私は勝ってはいません。」 最後の客となった矢野を従業員全員が送り出した。そして、八ヶ岳高原ホテルの最終日に、面川の妻祐子と息子大が、面川の働く姿を見にやってきた。そして、従業員たちはホテル最後の夜をそれぞれの想いをいだき過ごす。

(2) ドラマのポイント

a なぜ、面川と小池はユナイト・ホテル・チェーンへの再就職を断っても従業員と一緒に働くことを望んだのか?

他の従業員を仲間として認め、彼らと一緒にこのホテルを再建したため、彼らが一人でも欠けると、理想を実現した今のホテルではなくなるという意識があったのであろう。また、自分たちの意志とは関係のないところで勝手に売却されたことへの反発も含まれていたに違いない。

b あなたが面川なら、ホテルに残ったか、再就職を断ったか?

c 面川が従業員にホテルが売却されることを伝えなかったことをどう考えるか?

面川が従業員を心配させたくないため、黙って自分たちでどうにかしようとしたのであろう。確かに経営陣が持っている情報を全て従業員へ伝える必要はない。しかし、ホテルの再建の経緯と少人数組織というを考えれば、たとえ力になれないとしても従業員に情報を開示した方がチームワークの維持という点では良いかもしれない。

d ホテルマンになりたくなったという若月はなぜ、考えを変えたのだろうか?

若月はそもそも、親会社のクリオムから半年なり3ヶ月という期間限定で派遣されてきている。そのため、ホテルマンになるのではなく、社長からの命令を忠実にこなせばよいと考えていたのかもしれない。また、人間に接することを不得意とする若月は、このホテルで初めて仲間というものを得て、顧客に喜ばれることでホテルマンとしてのやりがいを得た。その結果、ホテルマンという仕事が気に入ったのであろう。

e 家族をホテルに迎えた面川の気持ちを想像してみよう。

自分が再建したホテルを見てもらいたいという誇らしい気持ちと、そのホテルが売却されてしまうので辛い気持ちが入り交じっている。
2. 組織の適正規模
(1) 統制の範囲

a 古典的管理論の議論

ファヨールというフランスの経営者が、組織の管理原則について述べたが、その中に「統制の範囲(Span of Control)の原則」というものがあった。それによると、1人の経営者やリーダーは15人程度の人間しか、直接監督できないというものであった。

b 階層化

組織の従業員規模が大きくなると、1人の経営者
が管理できなくなる。その場合は経営者と従業員の間に中間管理職を置き、組織を階層化していく。

例えば、ある経営者はいっぺんに従業員を2名しか管理できない、という統制の範囲を仮定する。3人で会社を作り、その時、経営者は従業員Aと従業員Bを直接、管理すれば良かった。図1の状況である。

(図1)


しかし、会社が成長し、従業員C、D、E、Fが新たに入社した。ところが経営者の管理能力が以前と変わらなければ、統制の範囲の原則に関する仮定から、4人を同時に管理できない。そこで、起業時からの従業員である、課長職を新設し、組織を階層化する。そして、AとBを課長(管理職)にし、課長Aは従業員CとDを、課長Bは従業員EとFを管理することになった。その結果、統制の範囲を崩さず、図2のような組織構造になった。

(図2)


従業員がさらに増えれば、中間管理職を増やし、階層化していく。

(3) 組織の適正規模

a ファヨールの理論によれば、1人の上司と15人の部下が組織の最大限の大きさになる。

b 経験則によれば、適性な組織の規模は上司を含め、10名以下とも7〜8人とも言われる。7〜8人程度が、一人一人が各自の役割を果たし、参画意識を持てる規模というのが理由である。これ以上、人が増えると、他のメンバーへ依存するメンバーが生まれてきて、組織全体のパフォーマンス効率が低下するそうである。

c そこで7〜8人の組織を単位組織とし、それを組み合わせて複合組織化していく。ヤマト運輸が2003年から営業所を営業ドライバー8名程度のセンターへ移行したのも、各営業ドライバーの有効活用と柔軟な活動を目的にした組織改革といえる。

d 階層に関しても経験則によれば、組織の階層化は5層が最大で、それ以上になると、トップと現場の距離が離れ、コミュニケーションの問題が生じる。

e もし、8人と5層を基本に組織の適性メンバーを考えると、8の4乗とトップの1人を加えた4,100人弱が適正規模の上限と推定される。

(3) 小規模組織のメリットとデメリット

a メリット
・意思決定とその伝達が早い。
・メンバーが参画意識を持ちやすい。
・各メンバーの責任を明確にし、コミットメントを引き出しやすい。
・コミュニケーションを密に取りやすい。
・統制しやすく、集団で行動を取りやすい。


b デメリット
・1人が複数の役割を持たなくてはならない。
・大規模な事業を単独で行えず、組織内で仕事が自己完結しにくい。
・規模の経済性を活かせない。

(4) 八ヶ岳高原ホテルの組織規模

a 総勢9名。関麻美がいた頃は10名であり、各自の仕事に重複があり、人数は過剰のように思える。関麻美が家庭へ戻り、マネジメント(面川と若月)、厨房スタッフ(小池、五十嵐、関)、客室・ホールスタッフ(本間、山村、中原、石塚)となった。

b 客室数、収容人員からすれば、客室・ホールスタッフは3名、厨房は2名へ減らせるであろう。しかし、十分なサービスによる差別化を追求し、9名雇用しているのであろう。
c マネジメントをやる側からすれば、この人数は統制しやすいし、働く側も互いに役割を与えられつつも、協力しあい、自分の存在意義を見いだせる人数であろう。

3. チーム・マネジメント

1) チームとグループの相違

?a グループの定義

メンバーが各自の責任分野内で業務遂行を助け合うことを目的に、主に情報を共有し、意思決定を行うために相互作用する集団である。

b チームの定義

チームは10名程度の人数で、各メンバーが柔軟に役割を変えながら、協力し、自律的に行動する。

c 八ヶ岳高原ホテルは基本的には責任分野が決まっており、グループの定義に近いが、場合によっては役割を柔軟に変えて協力し、若い従業員達は自律的に動いていけるチームの特性を持つ。

2) チームのタイプ
?a 問題解決型チーム・・・1980年代からポピュラーになったクオリティ・コントロール・サークルが代表例である。ある問題に対して、互いに解決案を考え、提案するもので、単独でそれを実施する権限は通常与えられない。
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b 自己管理型チーム・・・メンバーは上司が負っていた責任を引き継ぎ、メンバーの選択、計画立案、実行、メンバーの評価までを行うこともある。


c 機能横断型チーム・・・異なる業務分野の出身者が集まり、あるタスクを達成するために集まる。
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3) チームのメンバー
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チームには以下のようなメンバーが必要とされる。

a 専門家・・・技術的専門スキルを持つメンバー。シェフの小池や山村のようなメンバー。
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b 問題解決者・・・問題解決と意思決定をできる能力を持つメンバー。面川の役回り。

c 対人的調整者・・・チームの中を調整し、協働しやすいようマネジメントするメンバー。面川とメンバーの間に入るべき人間で、本来なら若月の仕事。それを小池が行っている。
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4) チーム・マネジメントのポイント
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a 役割の割り当てと多様性の促進・・・チームには様々な役割をこなせる多様なメンバーが必要である
。その意味では八ヶ岳高原ホテルは多様なメンバーがいる。
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b 共通目的に対するコミットメントの共有・・・目的を共有し、その目的をメンバーが必ず達成する責任感を持つ必要がある。最初、ホテルのメンバーはバラバラだったが、ホテルを黒字化するという目的を共有でき、それを責任を持って達成する意識がチームの中に生まれていた。

c 具体的な目標設定・・・目標は達成するために、より具体的な方がメンバーに理解されやすい。
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d リーダーシップと構造・・・チームの中で目的の共有や、目的に対する調整と、メンバーの動機づけするリーダーシップや、システムという構造が必要になる。

e ぶら下がりの排除と達成責任の自覚・・・チームの中で他者の成果に依存するぶら下がりを排除し、各自がチームの達成責任を自覚しなければならない。

f 適切な評価と報酬・・・個々人の評価とそれに対する報酬だけではなく、チーム全体への評価と報酬の制度を持ち、チームワークを醸成する。

g 高い相互信頼を育む・・・少人数ゆえに信頼感がないと、チームワークによる相乗効果が生まれにくい。八ヶ岳高原ホテルも、従業員間、面川と従業員の間に信頼関係が生まれたことで、ホテルの業績も高まった。

(5) 変革チームの作り方


会社や組織を改革する場合のチームは、その編成方針で正否が大きく左右される。

a 主力部門の人材で編成しない。
主力部門の人間だけでチーム編成すると、自分の属する部門の利益代表としての調整型の人ばかりになる危険性を持っている。そのため、人材が少なく、リーダー的役割を求められやすい弱小部門の優秀な人材の方が変革する能力がある。

b 素直で従順なメンバーはダメ。不満と批判精神がきっかけになり、危機感と分析力と結びつき、強靱な変革志向になる。

c 変革するメンバーはbで記述したように、不満分子や批判をする人材。そのため、上司受けの良い人は少ないゆえに、上司の評判で選ばない。

d 役割分担を生む多様性を確保する。



変革のチームは時間によって、その状態が変化していく。ポイントになるのは踊り場。この踊り場を乗り切るのは、リーダーシップ。リーダーの役割を持つ人が出現すれば、議論の方向が明確になり、その後の役割分担も決まっていく。そうでなければ、議論は課題の列挙などから進まず、非定型的意思決定で課題の列強より難しい、どう解決していくかなどの発展的議論ができなくなる。

e 変革チームのメンバーのパーソナリティ

タイプとしては論理的かつ柔軟な変革アイディアを提起する企画型、変革の戦略を決めてコミットすることを周囲に約束するリーダー型、現場に変革プランを落とし込むマネジャー型、変革の原理原則を守って厳しい変革の実行を引き受ける保守型、こうしたタイプが揃って変革は成功する。