〜組織再生のマネジメント〜

「人生の勝負は、第二章から」

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第4回 組織の中の意思決定
第4話 「面川更迭」
(1) あらすじ

 オープンまで1週間を切り、料金も1泊2万3,000円(2食付き)に決まり、広告案をみんなで考えたり、大張り切りである。神崎の雑誌記事もあり、予約が順調にはいる。しかし、オーナーの矢野から秋までのノルマを与えられる。7月から9月を通じて客室稼働率を7割にしないと、達成できない。もし、ノルマをクリアできなければ、面川をクビにするということである。非常に厳しいノルマゆえに若月は苛立つ。
 そして、いよいよオープンとなり、最初の若い予約客4人がやってくる。そして、飛び込みで高齢者の夫婦がやって来る。以前、このホテルへ泊まったことがあるということである。面川が配慮したものの、6人の客が同じ時間に食事をすることになり、厨房はてんてこまい。若い客の傍若無人の振る舞いに、本間が注意するものの若い客たちを怒らせてしまう。面川の機転でその場は事なきを得るが、酒に酔った客が本間に絡み、止めに入った中原が客に暴力を振るう。面川が丁寧に謝りその場を納めるが、本間も中原も納得がいかない。翌朝、中原は客と喧嘩をしてしまい、4人の客の宿泊料は無料にしてなだめた。そのことで、中原と石塚も喧嘩になり、中原が責任をとって辞めると言い出す。小池は「客を殴らなかった君はまだ可能性がある」となだめ、面川は「お客様がもう一度来たいと思わせるホテルにしたい」と、面川の態度に反発していた中原を説得した。

(2) ドラマのポイント

a 老夫婦の望みを叶えようとして、若者グループの隣の部屋を割り当てた面川の配慮をどう思うか?

老夫婦の部屋に関する希望に応えようとする面川の姿勢は、このホテルの理念と合致しており、適切と考える。しかし、その後の展開をから考えれば、若者のグループの隣り合わせにして問題が起きないか、ということを事前に想定しておくことも必要であったかもしれない。若者グループがチェックインしてきたときの様子を見れば、彼らがおとなしい客ではないというのは分かったはずである。そのため、彼らの部屋と老夫婦の部屋を隣り合わせにしたら、トラブルになるかもしれない事はホテルマンとしての経験が長い面川はある程度予測できてもおかしくないはずである。そのため、面川は事前にマイナス情報、若者グループの隣の部屋になることと、多少騒がしいかもしれないことを、老夫婦に承諾させておいた方が良かった。

b 若い客たちが騒いでいたことに対し、本間はどのように対処すれば良かったのか?

うるさいからその場ですぐに注意する、という気持ちになるのは無理もないが、若い客4名に、年齢の近い本間が対応すると、感情的に反発されることは予想される。こうした場合、複数の人間、特に年長者がお願いすることでトラブルを未然に防ぐ必要があろう。具体的には、本間は面川へ2階の客室の状況を伝え、一緒に対応してもらうのである。ディナーの場で、若い女性客が携帯電話を使用したとき、本間が注意せず、面川が注意をしたところ、若い女性客を素直に従ったのことを思い出せば、面川による対応が適切と思われるであろう。

c バーで本間が酔った男性客に絡まれたとき、従業員はどう対応すべきであったか。

状況を整理すると、騒音に関する本間と女性客の感情的行き違い、若い客達はかなり酔っている、バーにいる他の従業員は石塚しかいない。こうした状況で女性従業員へ、酔った若い男が絡むとなれば、問題は非常に大きくなる。この場合、まず、酔った若い男を冷静にさせることが重要で、個人対個人で対応するのではなく、集団対個人で対応すべきであろう。そこで、中原は面川も呼んできて、客へ失礼のないように、本間から離すことを考えるべきであろう。いきなり、けんか腰で止めに入った中原の行動は間違いである。また、中原が面川を呼びに行っている間、バーテンダーの石塚が止めに入る。石塚の3枚目キャラと六本木でのバーテンダーの経験は、場を和ませつつ、若い男性客へトイレに行っている女性客の話題を振って冷静にさせるなど、うまくトラブルを処理できた可能性は高い。

d 中原が顧客にとった非礼に対して、面川がバーの料金を50%引きや、宿泊料を無料にしたことをどう考えるか?

顧客を突き飛ばしたり、喧嘩したことを考えれば、面川の対応はいたしかたない。中原の行動は、警察などへ訴えられかねないもので、そうなればホテルの評判はがた落ちになるため、自己主張はせずに客の主張を受け入れる、回避によるコンフリクト解決になってもしかたがない。ただ、バーでの出来事はセクハラであり、こちらに関しては客に非がある。そのことは客に理解させた方がよい。もし、理解してもらえなければ、宿泊料を取らず、今後の宿泊は断る旨を伝えてもいいのではないか。客を満足させることは重要であるが、それは客の要望に全て応えることではない。ホテルの理念やルールに従って、サービスをしていくわけで、それらと相容れない客を断ることも必要である。ホテル側が顧客を選ぶことは、短期的に客を減らすものの、ホテルの格を創り出し、ホテルがターゲットとする客の満足感(老夫婦のような固定客)を高める。また、働く従業員もサービスを提供しやすくなる。

e あなたが面川ならば、中原や本間をどう指導したか?

ホテルには多様な客が宿泊し、多様な場面を生み出す。そのため、何かトラブルがあったときに、どう対応するか、ということは事前に教育した方がよい。まず、あらゆる意思決定と行動の基準は、ホテルの理念にあることを徹底して教え込むことが必要である。また、ホテルの若い従業員は、経験もなく、思ったことをすぐに行動へ移す傾向が見られる。そこで、常に冷静に考えることと、行動に移す前に一呼吸置くように指導する。

f 不祥事をしでかした中原を処分しなかった面川の対応をどう考えるか?

不祥事を犯し、損害を与えた従業員に何もペナルティを課さないということは、業務の管理者の行動としてはクビをかしげたくなる。しかし、面川がホテルの経営者として、従業員を育てるという視点であれば、失敗に寛容になり、学習させることも重要である。今回の対応に関しては、中原を始めとする従業員に対して、なぜ、こういうことが起こったか、その結果の重大さを認識させ、今後の行動へ活かすという組織全体の学習をさせることが重要である。

g あなたが面川なら、今回のドラマを振り返ってどう反省するか?

まず、トラブルがあった場合等の、事前のシミュレーションによる教育をしっかりしておくべきであった。また、ディナーの場で若い客達のマナーが悪いことがわかったので、老夫婦とのトラブルを未然に防ぐため、夕食後、山村に若い客達を外へ連れ出してもらうなどする。また、初めからバーを利用してもらう誘導を行う。バーで若い男性客とトラブルを犯した中原、若い女性客と感情的な行き違いのある本間は、客と顔を合わせない業務へ回し、未然にトラブルを防ぐようにする。

2. 組織の中の意思決定
1)意思決定のその前提となる仮説

a
経済人仮説・・・意思決定に必要なすべての情報を獲得し、最適な意思決定を行える人間を前提にした意思決定モデル。経済学で使われるモデルである。

b社会人仮説・・・人間の意思決定は感情によって大きく影響されるというもので、行動科学を基盤にした人間関係論の研究者たちの前提になっている。

c経営人仮説・・・人間が得られる情報に制約があり、価値観の影響もあるため、制約された合理性の下で、自分自身が納得できる、満足できる意思決定を行うとする、意思決定のモデル。人間行動の全てに意思決定がなされていると考える。経営学ではこの前提で理論構築をしている。

(2)意思決定のプロセス



a 情報活動・・・意思決定を行うために必要な情報を収集する。

b 設計活動・・・意思決定をするために、その意思決定案を作る。

c 選択活動・・・意思決定案を選択するかどうかを決定する。

d 検討活動・・・決定した意思決定が満足できるかどうかを検討する。その結果、満足すれば意思決定活動は終了する。満足できなければ、再び情報活動に入る。

e 高齢者夫婦に関する情報を会話の中から収集する。そして、その情報を分析し(情報活動)、彼らにどのようなサービスを提供するかの代替案を作成する(設計活動)。高齢者夫婦の想い出を大切にしてもらおうと、若者の部屋の隣に泊まってももらう意思決定を行う(選択活動)。その結果、高齢者
夫婦の満足感を分析し、その後の彼らに対するサービス活動の意思決定へ逝かしていく。

3)意思決定の種類

定型的意思決定・・・特定の情報のインプットに対し、過去に経験した同じ意思決定プロセスと結果からの学習を活用して意思決定し、同じ決定(アウトプット)を導き出すことがある。そうした、たびたび意思決定を行う事柄に関しては、意思決定プロセスが簡略化されたり、省略されて意思決定されることがあり。それを定型的(プログラム化された)意思決定という。学習効果で、定型的意思決定は迅速に行われるが、情報のインプットの認知が誤ると、間違った意思決定をされてしまう。例えば、ホテルの従業員が、来訪客に「いらっしゃいませ」と言葉をかけるのも意思決定であり、客が来訪すると定型的な意思決定がされ、すぐに「いらっしゃいませ」という声をかける行動に移される。

非定型的意思決定・・・頻繁に起こらない事柄に対して意思決定を行う場合、意思決定プロセスをきちっと適用し、自分が満足できる意思決定を行おうとする。それを非定型的(プログラム化されない)意思決定という。そのため、非定型的意思決定は時間がかかり、簡単には決められないので難しい意思決定である。面川がホテル開業に関しての様々な意思決定を行ってきたが、こうした意思決定は頻繁にあるわけではなく、意思決定のプロセスのパターン化はなされていない。

4)意思決定の階層

a戦略的意思決定・・・経営者が行う、組織の経営に大きな影響を与える全般的な意思決定。意思決定の内容の多くは非定型的意思決定。例えば、神崎をプレオープンで招くことを受け入れるというのは戦略的意思決定。

b管理的意思決定・・・管理職が行う、ある特定業務に限定された意思決定。意思決定の内容は定型的なものと非定型的なものと半々くらいである。例えば、面川が顧客の対応に関して従業員に指示するのが管理的意思決定。管理的意思決定をできる人は、通常、組織からその権限を与えられた人である。そのため、関のおばちゃんが山村に口うるさく指示していることを山村が「なんであんたにそんなことを言われなくちゃならないのよ」と言われてもしかたがない。

c業務的意思決定・・・一般従業員が行う業務に関わる意思決定。意思決定の内容は定型的意思決定が中心になる。例えば、本間が客へのもてなしを考えるのは、定型的意思決定である。本来は客は多様なので、非定型的に意思決定すべきであるが、客が多くなると非定型的意思決定を行える時間的余裕もないし、過去の経験からこの客にはこうしたもてなしが良いだろうということが分かり、定型的な意思決定にしてしまえる。

3. 意思決定の特徴
1)合理性

絶対的合理性・・・経済人仮説が前提とする、意思決定する人間は全ての情報を獲得し、その情報に基づいて感情が一切入らない、最適な意思決定を行える合理性。

制約された合理性・・・経営人仮説が前提とする、人間は限られた情報で、価値観や感情に左右されながら、自分が満足できる意思決定を行うという合理性。

2)意思決定に影響を与える前提

価値前提・・・意思決定に影響を与えるその人の価値観。例えば、面川の経営に対する意思決定は、かってホテルを潰した過去の体験から形成された価値観の影響を受けている。

事実前提・・・高齢者夫婦を満足させるサービスは若者グループとは隔離することから始まる、という面川の価値前提に対して、高齢者夫婦が望む部屋は若者の部屋の隣しかないという事実前提があり、結果として事実前提をベースにして高齢者夫婦の部屋を選択する意思決定をせざるを得なかった。

3)意思決定の基準

最適化意思決定・・・経済人仮説の前提で、人間はベスト(best)の意思決定ができるというもの。

満足化意思決定・・・経営人仮説の前提で、人間はベター(better)な意思決定で満足するというもの。例えば、面川が料理人を採用するとき、小池を最良の料理人として採用したわけではない。小池がホテルにやってきて、彼が面川を満足させる料理人であったから採用した。

4)意思決定のグレシャムの法則
意思決定は定型的意思決定と非定型的意思決定に分けられるが、非定型的意思決定は面倒で、難しいため、定型的意思決定を優先して非定型的意思決定を後回しにしたり、非定型的意思決定を定型的意思決定で行おうとすることもある。そうした傾向を、「悪貨が良貨を駆逐する」というグレシャムの法則にたとえたもの。
4. 上手な意思決定と葛藤への対応
1)意思決定の基準
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a 誰のための利益を追求するかを明確にする
・・・例えば、顧客を中心に考えるのか、従業員を大切にするのか。石塚は顧客に絶対切れてはダメという基準を持ち、中原は本間を守るために酔って絡んだ男性客へ怒った。
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b 優先順位づけ・・・酔った男性客を本間から引き離すための意思決定としては、いろいろなやり方がある。その中で、中原はすぐに解決するということを重視し、力づくで引き離そうとして喧嘩になった。顧客重視を優先する石塚だったら、冗談を言いながら、うまく場を和ませたままで男性客を本間から引き離そうとしたであろう。
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2)意思決定の手法
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a 意思決定の前提の整理
・・・自分の意思決定に対する傾向、意思決定に及ぼしそうな価値観、意思決定に関わる事実を整理してから、意思決定に入る。いろいろな前提を認知せず、整理しないで意思決定に入ると、ある特定要因に引きずられて、誤った意思決定をしてしまうことになる。

b シナリオ式意思決定・・・代替案を検討するとき、複数の代替案を用意し、代替案も時間を考慮した動態的なもので考えていくことが望ましい。それを意思決定をしていくための前提となるシナリオを複数つくり、こういうシナリオが実現したら、こういう意思決定を行う、というように、変動のリスクを考慮したシナリオプランニングという方式の意思決定が、一部の企業で採用されている。

3)意思決定の支援
?a 既存の知識と経験を有効活用・・・知識や過去の経験から非定型的意思決定に関わるリスクを低減し、より定型的な意思決定化していくことで、意思決定を容易に、より適切なものにしていく。
?
b 情報支援システムの活用・・・知識を形式知化し、組織メンバーで共有することは、意思決定の的確さを高めるのには有効である。そのツールとして、コンピュータを活用する。例えば、ある経営コンサルティング会社は、過去のコンサルティング事例をデータベース化し、コンサルティングという非定型的意思決定を支援するようになっている。
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c 意思決定の結果の検証・・・行った意思決定の結果、どうなったかを理解し、次のより良い意思決定にフィードバックする必要がある。


4) 葛藤(コンフリクト)

?a個人の中、組織においての複数の人間間、もしくは集団間で生じる対立的、敵対的な関係。中原と若い男性客が葛藤状態になり、喧嘩へ発展した。中原の行動は、石塚の言うようにサービス業ではあってはならない。

b葛藤は合理的な意思決定をできない状況にする。両者の抱える問題から、両者にとっての最適な意思決定を妨げるのである。

5) ビジネス上の葛藤が生じる次元

a同僚同士

客と喧嘩した中原とそれをたしなめた石塚の関係。

b上司と部下

上司は権限を行使し、部下がそれを受容しなくてはならない。しかし部下がその権限受容に納得がいかない場合、多くは生じる。面川が顧客に謝るのを見て、顧客へぺこぺこばかりしているホテルの仕事は自分に向かない、と辞めようとする中原と本間。中原と本間は面川との関係に葛藤を感じたから辞めようとしたのである。

c社内の部門間

縦割りが強い組織では、社内の部門が組織の下位目標を有し、その目標達成に他部門の利害を害してしまったり、他部門との協働や調整を拒むことがあり、それが部門間の葛藤を生じさせる。花壱は小さな組織なので、部門間の葛藤はなく、個人間の葛藤になってしまう。

d非公式組織間、公式組織と非公式組織間

公式に組織化された組織以外に、公式な権限指揮系統と外れて生まれる自律的組織が非公式組織である。その非公式組織が公式組織と葛藤を生じさせたり、非公式組織間で葛藤を生じさせることもある。例えば、自民党の派閥という非公式組織が、自民党の挙党体制という方針に反して、政権に参加しないなどの例が挙げられる。また、森派と江藤・亀井派のような派閥間で抗争を行う例もある。

e組織間

八ヶ岳高原ホテルと、矢野社長の会社の間で、ホテルの将来を巡って葛藤が生じるであろう。

6) 葛藤のデメリットとメリット

a合理的な意思決定が不能になったり、協働が行えない。

b葛藤は破壊であり、そこから創造が生じる。葛藤を解決しようというプロセスが、変革を生み、新たな創造が生まれる。例えば、今回生じた葛藤から、面川に対する中原や本間の見方が変わり、彼らがホテル業の理念を学習し、彼らの新しいサービスを引き出すであろう。

(7) 葛藤の解決

a 完全解決…葛藤の原因を完全に除去する。中原と客との間の葛藤の原因は、本間に客が絡んだこと。客が帰るか本間がホテルを辞めれば、原因は完全に除去できる。でも、それは無理。

b 準解決…葛藤の原因を細分化し、部分的に解決する。または、異なった目的に切り替え、葛藤を生じさせないようにする。現実的な解決策だが、再び葛藤が生じる懸念がある。面川がバーの料金を50%オフにすることで、異なった目的を客へ与え、それを受け入れるかどうかに論点を変えて葛藤を解決した。

(8) 葛藤の解決手法

a コミュニケーションを良くする

b 仲介者を設ける

(9) 葛藤(コンフリクト)のマネジメント



a 競争…互いの利益をあくまでも追求する。このドラマで言えば、中原が若い男に取った行動が競争になるが、対価を取ってサービスを行うホテルでは、従業員がこうしたやり方をすべきではない。

b 和解…自らの利益を捨て、相手に譲る。中原と本間が全面的に客へ謝り、言うことを聞くこと。

c 回避…自己と相手の利益が衝突しないように避ける。朝、客が降りてきたとき、中原は厨房に逃げることで、客と会うことを避ける。

d 妥協…自らも、相手も譲り合うことで解決する。面川は客に本間へのセクハラの非を認めさせ、本間へ謝らせる一方、中原と本間も客へ謝る。両者にとって、不満が残るやり方になる。

e 協力…互いの利益を高め合うようにする。客の時計が壊れていたが、それをホテルの損害保険を協力(口裏を合わせる)して申請する事で、客は新品の時計を、中原は損害を客に請求される事がなくなる。