〜組織再生のマネジメント〜

「人生の勝負は、第二章から」

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第9回 組織の危機
第9話 「仲間を裏切る野望」
(1) あらすじ

 若月は10月にこのホテルはユナイトホテル・チェーンが買収することを面川、小池、本間に打ち明ける。「このホテルを再建したのは我々ですよ」と若月は従業員たちの雇用確保に希望を抱くものの、面川はユナイトホテルが買収するのは箱(建物)だけで、従業員はクビになるだろうと、厳しい見方をする。ホテルが繁盛して喜ぶ従業員を見て、事実を知った面川らは辛くなる。
 面川はオーナーの矢野に会うため東京へ向かった日、客の中に外国人女性を連れた沖(宅麻伸)というホテルの中を詮索し回る男と、作業服を着た宮梶という客が宿泊した。その宮梶が散歩中、怪我をして、近くのペンションオーナーの貫井に運ばれてきた。貫井は宮梶の様子を見て、「気をつけた方がいいですよ」とアドバイスをする。一方、沖は食事直前になって、連れの女性がベジタリアンということを理由に、食事のメニューを変更して欲しいという。不平を言うスタッフに小池は動じず、沖の注文通りに素晴らしい料理を作り上げ、沖を感激させた。沖はこのホテルを買収するための調査にしにきたらしい。
 翌日、宮梶は捻挫しているにもかかわらず、出かけようとした。不審に思った面川は宮梶を希望する場所へ連れて行った。そこで、宮梶は八ヶ岳の想い出を話し始め、自分の工場が経営危機で、従業員のクビを切らなければならないかもしれない、と苦しい胸の内を打ち明けた。そして、面川と宮梶は従業員の大切さを語り合った。沖たちはチェックアウトする時に、自分はユナイトホテル・チェーンの経営幹部であると自己紹介した。

(2) ドラマのポイント

a 若月がホテルの売却話を面川、小池、本間の3人のみに打ち明けたことをどう考えるか?

他の従業員が持っている仲間意識を考えれば、全員の前で報告すべきである。

b あなたが面川なら、この売却話をどう考え、行動するか?

親会社の意向なので、ホテル売却を覆すのは難しいかもしれない。例えば、面川や小池が資金調達をできるのであれば、矢野からこのホテルを買収する、MBO(Management Buy Out)という手法も考えられる。

c 小池はなぜ矢野へ一矢報いようとしているのか?

シンガポールのオリエンタルホテルで、かつて矢野にホテルを売却され、職を追われた経験があるから。

d 従業員はなぜ大切なのか?

ホテルの価値は、従業員が全員で創り出すサービス価値、ロケーションや設備から産み出される価値、から構成される。そのため、ホテルの従業員は価値を産み出す源泉で重要である。八ヶ岳高原ホテルが繁盛しているのは、小池の料理、八ヶ岳山麓というロケーション、従業員個々のサービスである。加えて、従業員の仲間意識から生まれるチームワークと良い雰囲気も客を満足させる。そのため、従業員の誰一人も欠けてはならないのである。
2. 組織が危機に陥るとき
(1) 事業のライフサイクル

a 人間に寿命があるように、事業にもライフサイクル(寿命)がある。例えば、戦前、戦後と国の主要エネルギー源だった石炭が石油へ主役をとって代わられたことで、石炭事業の寿命が尽きてしまった。

b 組織が単一の事業しか持たない場合、事業のライフサイクルの終わりと共に、組織の存在意義は失われる。

(2) 経営資源の陳腐化や不足

a 人、物、情報・知識といった経営資源が陳腐化し、価値が生み出せず、社会や顧客から組織存続の対価を受け取れなくなると、組織は存続できない。例えば、老舗の旅館が不景気から廃業しているのもその一例。

b 組織の存続にとって、基盤になる経営資源が不足した場合、組織は存続できない。八ヶ岳高原ホテルの再建に当たって、面川へ託されたのは2,000万円。この資金が再建途中で尽きたら、ホテルは再び廃業することになった。

c 組織メンバーの不適応・・・組織メンバーが環境変化や組織の成長に追いつけず、意欲を失って組織を離れたりする危機がある。

(3) リスクへの不十分な対応

a 人の管理がうまくいかず、組織内部のメンバーが犯罪行為などをして、組織が崩壊することもある。例えば、雪印食品は牛肉の産地偽装という犯罪行為をし、社会から糾弾され、解散した。

b 組織内部の葛藤によって、組織が統合できず、解散することもある。例えば、社内で権力争いがあり、分裂してしまうなどのケースである。

c 取引先の危機が連鎖的に伝わる。組織が生存するのに重要な経営資源を依存している組織が危機になると、経営資源が供給されず、組織が存続できない。資金を提供していた北海道拓殖銀行が経営破綻した後、資金繰りがつかず経営破綻した北海道企業も多い。

d 自然災害や過失による損害から、組織存続のための経営資源を一気に失ってしまう。例えば、阪神淡路大震災で壊滅的な打撃を受け、再建できなかった企業や店も多かった。

(4) ステークホルダーからの圧力

組織を所有したり、統治する人や組織といったステークホルダー(利害関係者)が、その組織の活動に対して影響を与える。八ヶ岳高原ホテルは、オーナーである矢野社長がホテルを売却する戦略を採るために、組織が危機に陥っている。

5)危機を乗り越える

?a危機の予測・・・事前に危機を予測し、危機への対応準備をしておく。
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b
新しい環境に適合する新しい経営手法の導入・・・経営戦略を修正したり、組織構造やシステムを改革する。
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c危機に強い組織文化の創造・・・組織の価値観が危機に冷静に対応し、変化を恐れないようなものであれば、危機に対して迅速に対応し、変革していく方向に進んでいく。


3. 組織の成長と危機

1) 組織のライフサイクル論

?a事業・製品のライフサイクル

製品や事業に寿命(ライフサイクル)があり、単一や少数の製品や事業に依存した組織は、それらの寿命が尽きると、組織の寿命も尽きてしまう。

?b組織メンバーの成熟と入れ替わり
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組織のメンバーが入れ替わらないとメンバーの年齢が高くなり、成熟する。新メンバーを入れないと、メンバーの年齢進行と共に組織も成熟し、停滞する懸念が出てくる。

2) スタートアップ期
?成長・・・事業創造による成長。面川が従業員を採用し、ホテルをオープンし、客とトラブルを起こしながら、なんとかやっていた時期。
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危機・・・外的脆弱性、組織の統合。具体的には顧客の獲得がスタートアップ期の問題になる。また、メンバー間のコミュニケーションが取れておらず、山村のようにトラブルを起こす従業員もいる。
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3) 成長期
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成長・・・組織目標の明確化。面川がどのようなホテルにしたいかを従業員に語り、目標を自覚させたことから、従業員の意識改革が始まった。
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危機・・・急激な成長にともなって経営資源調達がついていかれず不足状態になる。また、経営資源を統合するシステムが不在だったり、メンバーの中で成長する人と成長しない人がでてきてしまい、組織の成長と不適合になる人の意欲低下や足手まといの問題が生じる。関麻美が私的理由により組織の成長に適応せず、ホテルを辞めていった。
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4) 安定期
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成長・・・成長期の混乱から新たな制度や手続きを導入、組織化することで成長する
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危機・・・手続きや文章化といった官僚化が進み、組織硬直の危機が生じる。また、組織の分化が起こり、組織の再統合の必要性を生じさせる
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5) 成熟期
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成長・・・チームワーク、ルーティン化
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危機・・・組織の慣性による新しい革新がおきにくく、組織の陳腐化が生じる。革新への動機づけを行い、組織革新を行うか、環境に適応することで組織を維持するか、陳腐化から衰退してしまうか。新たな組織のライフサイクルの軌道へ乗せられるかどうかが一番の課題になる。



4. 組織の買収
(1) M&A(合併と買収)

a M(Merger)&A(Aquisition)は組織の所有権の変更を行う手法である。

b 合併…経営資源や顧客を獲得するために、相手組織の資産と自組織の資産を併合し、1つの組織にするやり方。企業の合併や、省庁再編による役所の合併などがある。合併方式としては、1つの組織にするのではなく、合併する組織(会社)同士が新たに包括的な組織(持株会社)を作り、そこへ合併する組織(会社)が下部組織(子会社)として参加するスキームもある。

c 買収…経営資源や顧客を獲得するために、相手組織(会社)を買い取り、自組織へ組み込むやり方もある。合併との違いは買収者と被買収者が明確で、被買収者の経営資源がすべて買収者に引き継がれないこともある。八ヶ岳高原ホテルは、所有者の矢野社長からホテルの建物と営業権をユナイトホテルが買い取ることで、所有権が移転する。

(2) 買収のメリットとデメリット

a メリットは事業に必要な経営資源、特に人、設備、情報(顧客情報等)、知的資産(ブランド、ノウハウ、特許、信用)を一気に獲得できる。

b デメリットは買収のために資金が必要である、買収に対して思わぬ反撃に遭う、買収の際に人材の流出や顧客の離反が起こりうる、買収後の経営統合がうまくいかないリスクがある。

(3) 買収の際の買収価格決定理論

a 買収する企業の資産を評価する

b 買収する企業が想定する投資回収期間に稼ぎ出すキャッシュフローから評価する

第1段階 企業が将来産出するフリーキャッシュフローを予想する

※企業のフリーキャッシュフロー=税引き後営業利益+減価償却費-設備投資-増加運転資本

第2段階 フリーキャッシュフローの合計を資本調達コストで現在価値に直す

第3段階 遊休資産の処分価値を加える

第4段階 有利子負債をそこから控除する

5. 組織の清算と再建
(1) 倒産とは?

a 倒産とは企業経営が行き詰まり、債務が返済できなくなった状態を指す。

b 任意整理…2回目の不渡り手形を出し、銀行取引停止処分を受けた場合。または、代表者が倒産を認め、整理するとき。

c 法的整理…裁判所へ、会社更生法適用を申請する(再建型倒産)、商法による会社整理法適用(再建型倒産)を申請する、民事再生法の手続き開始を申請する(再建型倒産)、破産を申請する(清算型倒産)、特別清算の開始を申請する(清算型倒産)などがある。

d 再建型倒産…会社更生法、商法整理、民事再生法、まれに任意整理の一部。

e 清算型倒産…破産、特別清算、大部分の任意整理。

(2) 会社更生法

申請対象は株式会社のみで、倒産することで社会的影響が大きい場合に認められ、経営責任のあった旧経営陣は新しい経営体制には関与できない。

(3) 商法整理

株式会社のみ申請できる。債権者の少ない場合に適用されるが、あまり例はない。旧経営陣が新たな経営体制へ関与することができる。

(4) 民事再生法

適用できる範囲は、全ての法人と個人に適用される。経営破綻が深刻化する前に、早期再建を目指すために、制定された。旧経営陣は新しい経営体制へ関与できる。

(5) 破産

対象は法人から個人まで。破産の申請者によって自己破産、自己破産、第三者破産に分類され、裁判所が破産を宣告した後は破産管財人が破産者の財産を管理する。

(6) 特別清算

株式会社のみが対象。解散登記により就任した清算人が清算を進める。