〜起業の戦略〜

第7話          10 11 12
1.マーケティングの4P
@ あらすじ

イタリア食器販売の店「リトルバード」がオープンしたが、3日で来店客5名、売上は数千円程度と苦難のスタートとなった。鴨下は知り合いの女性情報雑誌編集長に頼み、取材をしてもらう。雑誌に掲載され、店が知られ来店客も増加し、ダイエー系百貨店の銀座「プランタン」から出店要請を受ける。しかしながら、同じ食器販売の「HANADA」とコンペとなる。百貨店の考えとしては派手な色使いのHANADAを気に入っているようだが、淀川が突然現れ形勢はリトルバードへ傾く。その結果、プランタンへの出店はリトルバードに決定し、花田社長を怒らせてしまう。一方、太田が三ツ木隆介と進めるホテル計画は、三ツ木から中止の申し出を受けてしまう…
A ドラマのポイント

a. 野島の悪い癖とは?
物事がうまくいかないと、人に当たること。リーダーとして部下の失敗もリーダーの責任だし、ましてや自分や他の外部環境要因の影響でうまくいかない場合、弱い立場にある部下に八つ当たりするのは非常に良くないことである。リーダーにとって一時的なストレス発散になっても、部下に余計なストレスを与えることになる。

b. 野島と鴨下の販売方針の違いを明確にし、分析せよ。
野島は上品な接客販売で売ろうとしているが、鴨下は積極的に顧客へアプローチする接客販売をしようとしている。接客販売のやり方は販売する商品のイメージを左右するので、接客販売方法をマーケティング戦略の一環として事前に統一した方が良い。

c. 淀川の販売方法をどう思うか?
淀川は自分の想像で、製品に関する物語を作り上げている。製品に関するストーリーを作り上げることは、多かれ少なかれマーケティング上行われているが、淀川の話は、一歩間違うと製品に関する偽りという事になって、法的や倫理的には良くない。

d. なぜ3人の関係がぎくしゃくし始めたのか?

創業時のそれぞれの持っている目的と価値観が異なる。特に鴨下は、野島と太田が共有している目的や価値観を共有できておらず、孤立化しやすい。そのため、何か問題があったときに、野島の相談役は鴨下でなく太田になってしまい、鴨下はいっそうの疎外感を味わうことになる。仕事が順調にいっているときは、個人の特性の相違から生じる葛藤を抑制できるが、問題解決の必要とされる場面では明確になりやすい。また、野島はリーダーとしての権力欲や責任感が強すぎ、それが太田のパーソナリティーとかみ合わないことがある。組織は異なった特性を持つ個人の協働システムゆえに、組織の目的に向けて協働させるのは難しい。特に小企業においてはチームワークが組織の存続に大きく影響を与えるゆえに、メンバー間のコミュニケーションによる相互理解を常日頃から深めておき、最低限、組織目的へのコミットメントを確保しておく必要がある。

2.マーケティングの4P

@ マーケティングの4Pとは?

製品やサービスを販売していくために必要な4つの要素をP(製品、価格、流通、販売促進)で始まる言葉でまとめたものである。

A 製品(Products)に関わる戦略

a. 市場細分化によるターゲットマーケティング
誰に対してその製品やサービスを販売したいのか?その「誰」を明確にするため、個人か法人か、個人ならば性別、年齢、収入、ライフスタイル、地域といった属性で、法人ならば業種、事業内容、規模、地域などの属性で、顧客(市場)をグループ化し、明確にする。グループ化した顧客の中で、ビジネスが成功しやすい顧客グループに集中するのがターゲット・マーケティング。リトルバードは、都市部に住む、生活にこだわりを持ち、それなりにお金をかける女性をターゲットにしていると思われる。そのため、高級住宅街の自由が丘へ内装の綺麗な店を出店し、高めの価格で高級イタリア食器を販売している。

b. 製品のポジショニング
他のライバル商品・サービスに対して、どのような位置づけにするのか。例えば、低価格製品(100円ショップの食器)、高付加価値高価格製品(ビアンカの食器)、といった価格と差別化の程度でポジショニングを決めることが多い。

c. ライフサイクル
製品の売れ行きから見た寿命。製品の寿命を予測するには、売上成長率を使用する。売上成長率によって、導入期、成長期、成熟期、衰退期といった4つの時期に分け、それぞれ適切な戦略を採用する。企業は異なったライフサイクルと、ライフサイクルにおける時期の製品を複数持つことで、ライフサイクルによる売上変動のリスクを管理しておく必要がある。

d. ブランド(ショップブランドVS製品ブランド)
リトルバードというブランドと食器のビアンカという2つのブランドがあり、どちらも無名である。そこで、経営資源に制約のある小企業は戦略としてはどちらかを集中して全面に押し出し、マーケティングしていかねばならない。リトルバードがビアンカの総代理店の権利を未収得であること、今後他ブランドの食器を扱う可能性を考え、リトルバードを全面に出す戦略が望ましいであろう。

B 価格(Price)の決め方

a. 原価志向(コストプラス設定法・マークアップ設定法・ターゲット価格設定法)
確実に利益を確保しようとする考え方。しかしながら、その価格で売れるかどうかは分からない。

b. 需要志向(知覚価格設定法・需要価格設定法)
顧客が買っても良いと思える価格を調査して価格設定するもので、売上重視の考え方を全面に出す。ただ、顧客は往々にしてわがままであるから、顧客の希望を反映すると、価格は低すぎて利益がでないこともある。最近のオープンプライスは、需要志向の戦略を採用しやすくしている。

c. 競争志向(入札・実勢価格)
競合店の価格を参考に決める。これも売上重視の考え方による価格設定である。しかし、競合他社が低コスト体質であると、自社の首を絞める結果になりやすい。また、最近の外食産業に見られる価格競争の泥沼にはまり込む危険性がある。コジマ電機に見られる、他店より必ず安くする、という最低価格保証は価格競争の泥沼へ陥らない一つのやり方。

d. 戦略的志向(市場浸透価格・スキミングプライシング)
その価格では現在のコスト構造で利益がでなくても、将来の経験効果や規模の経済性を見込んでコスト割れの価格で売ったり、高価格を容認する顧客だけにターゲットを絞って高価格で売ったりする、価格決定法。前者の例としてトヨタのプリウス(ハイブリッドカー)が、後者の例としてシャネルなどのブランド製品がある。

C 流通(Place)に関する戦略

a. 立地を克服する
ターゲットとする顧客が集まりやすい場所へ出店するのが望ましいが、そうした好立地の場所へ出店するのは需給が逼迫していて、早々にして空きがなかったり、家賃が高かったりする。一方、事業内容やビジネスのやり方次第では、一般的に人が集まりにくい場所でも集客できる。例えば、家賃の高い一等地を避けて、家賃の安い場所で店を開くモスバーガーは、商品力によって顧客を集客できた。また、ホーマックなどのロードサイド店は既存の商店街を避け、広い駐車場を確保できる郊外へ立地を求め、成功している。

b. 流通経路を工夫
流通経路に関しては、仕入に関する川上の設計と、販売経路の川下の設計が必要だ。仕入の設計は、仕入コストをさげようとしたら、流通経路を短縮化することである。ただし、流通経路の短縮化は仕入のリスクが増加する、取引条件が厳しい、情報が収集しにくい、などのデメリットもある。販売経路の設計は、店売り、通信販売、ネット販売、といった経路の問題とマルチレベル・マーケティング(アムウェイ等)のようなシステムの問題が考えられる。前者の中の店売りに関しても、コンビニ、スーパー、百貨店、ディスカウント・ストアーといった業態の決定がありうる。こうした各要素を一つ選択するのではなく、自社のビジネス・モデルやビジネス・システムにもっとも適合したものを複数組み合わせて統合し、設計するのが普通である。

D コミュニケーション(Promotion)の戦略

a. コミュニケーションミックス=広告+販売促進+人的販売+パブリシティ+口コミ
自社の情報をどのように顧客へ伝え、売上に結びつけるかの問題。上記のようなミックスの要素を組み合わせていく。

b. 広告…認知や知識の提供を目的とした一方的情報提供

 c. 販売促進…販売実演やサンプル配布などによる認知や知識といった一方的情報提供と、製品使用方法の指導など。

d. 人的販売…個々の顧客に対応した情報提供、製品使用方法の指導、説得、販売締結を行う双方向のコミュニケーション。

e. パブリシティ…商業的に意味あるニュースを無料で媒体に掲載させることで、店の情報や評価を知らせることで購買意欲を刺激する一方的コミュニケーション。

f. 口コミ・ネットコミ…顧客の自発的双方向的、相互扶助のコミュニケーションで、無料だが店側にはコントロールできない。

g. AIDMA=Attention(注意をひく)→Interest(興味を持たせる)→Desire(欲求を起こさせる)→Motive(動機づけする)→Action(行動を起こさせる)
AIDMAは人間の消費行動を促進するためのモデルである。

h. プッシュ型戦略…流通業者へマージンなどによる誘因への働きかけを中心としたコミュニケーション戦略。顧客に対しては流通業者を介したアプローチになる。

i. プル型戦略…広告などで直接顧客へ働きかけ、流通業者にはマージンが少ないコミュニケーション戦略