File NO.307 農事組合法人 
         モクモク手づくりファーム
1.団体概要
団体の種類:農事組合法人  代表者:木村修氏  代表者の属性:社長理事
常勤職員:180名 設立年月1987年 事業規模:26億円(2000年度連結決算)

2.沿革
 輸入牛肉の自由化により豚肉離れの危機意識が畜産家の中に生まれ、1983年、三重県の畜産連合会は付加価値を高めるために「伊賀豚」という銘柄豚を生み出した。食の安全性を重視するイオングループが、畜産家をまとめれば全量を買い取ってくれることになった。そこで、連合会で営業を行っていたメンバー数名が農業生産法人を作り、伊賀山麓豚肉という統一ブランドで販売することになった。ところがイオングループは半分しか買い入れてくれなかった。そこで、生協へ販路を拡大したり、地元のスーパーの店頭で畜産家が店頭に立ち、販売促進を行った。生産者が店頭に立つことで消費者の視点で、自社製品と他社製品の価格や売れ行きを比較して見ることになった。しかし、スーパーへの納入は200店舗にまで増え、売上が増えたが、消費者の顔が見えないことに危機感を持ち、産直を増やすために地元のスーパーを除いて、スーパーや商店との取引は止めた。
 1987年には、単に銘柄豚肉を販売するのではなく、さらに付加価値が高くなるように、伊賀豚を使ったハム作りを行う農事組合法人「伊賀銘柄豚振興組合」が設立された。そして、ハム工房が完成して、ハムの製品開発で有名な職人を招き、翌年から伊賀豚を使った高級ハムを生産し、販売を開始したが目論見に反して売れなかった。加工所の隣のログハウスで直接販売(補助事業)したが、日商は最高で3000円であった。高級品ゆえに、地元の人が日常に使用するハムとして買いに来てくれなかったのである。取引先へ日々の支払いはできたものの、売上が十分でなく、工場などの償却ができないので当初は赤字だった。そこで、組合員達は考え、高級ハムが売れそうな、贈答用へターゲットを変更した。夏からギフト用販売を試験的に始め、手応えをつかんだので、60万円かけてカタログを作成し、冬から本格的にギフト商戦を開始しした。組合員全員で販売した結果、手作りハムの売上は伸び、それまでの月次赤字を一掃できた。結果として、年間売上高は1億2〜3000万円、収支はとんとんになった。ギフト用のハムを購入してくれた顧客からのヒヤリングで、ハムはメーカー名で売れているのに気がつき、マスコミを通じてブランド名を売ろうということになった。加えて、最終消費者を囲い込むため、自分たちの事業へ巻き込むことが必要になった。
 まず、マスコミに取り上げてもらうため、きっかけ作りを探した。モクモクファームは少量多品種の生産が可能だったので、特徴のある商品でアピールすることにした。当時のTV番組が季節ごとに食のTV番組があり、そうした番組で取り上げられやすいように、季節にあわせた商品開発をした。たとえば、バレンタインデイ向けに豚の心臓を使ったハムを作ると、日経新聞が取り上げてくれた。選挙用のソーセージ(創造する政治)も高価格で期間限定販売すると、販売も好調だったがマスコミも報道してくれた。奇をてらった商品でマスコミにネタを提供して、マスコミと密接な関係を形成する対マスコミ攻略がうまくいき、いまやTVの取材で年70回、新聞雑誌の取材で700回もの訪問を受けるようになっており、モクモク手づくりファーム全国的に名前が知られ、全国から注文がきている。
 消費者を囲い込むためのマーケティングとして、主な顧客であった生協の会員をモクモク手づくりファームの工房へ招き、飲食を提供して、販売促進を行った。見学をしに来た人々を会員組織化した「モクモククラブ」を1988年に設立した。工房の見学と飲食を数度やれば、飽きられてしまうため、ソーセージ体験生産をやってもらったところ、大好評だった。その結果、生協会員が積極的に口コミで、モクモク手づくりファームの商品の美味しさや安全性を宣伝してくれた。ソーセージ生産体験は体験教室化され、年間3万人程度の人が来てくれるようになり、売上が飛躍的に増加した。ソーセージの手作り教室によって、地元だけでなく、1時間から2時間圏内である名古屋や大阪から、客が観光がてら来てくれるようになった。観光客は普段手に入らない土産物を手軽に購入したり、食べたりして、客単価が地元客より高くなる。いわば、非日常的な状況では財布の紐が緩くなる。観光、学習、商品の販売を組み合わせることで、売上がさらに増えた。
 より柔軟な事業展開を行うため、農事組合員全員が出資し、モクモク手づくりファームが生産した商品を主に販売を担当する有限会社「農業法人モクモク」を1992年に設立する。モクモク手づくりファームは、農業・畜産の生産に限定された1号農事組合法人なのに、販売もやっているので、1994年に行政の指導もあって1・2号農事組合法人へ転換し、名称も農事組合法人伊賀銘柄豚振興組合から、農事組合伊賀の里モクモク手づくりファームへ変更し、有限会社との事業分担を明確にした。事業も畜産だけでなく、農業も含めた範囲とし、組織内部に農業生産部を新設した。それぞれの事業の役割があり、異なった法人形態としての長所と短所を補うものの、実態としては農事組合も有限会社も一体で経営している。自分たちでも直接農業をやりたくり、農事組合法人が休耕地を手に入れ、米作りを始め、通信販売で会員へ米を売る。モクモク手づくりファームだけでの生産量では不足し、周辺の農家にも米を作ってもらい、通信販売で販売した。モクモク手づくりファームは、知り合いの生産者と協力しあいながら生産し、顧客も会員なのでよく知っている。取引先の生産者と消費者を共に知っていることが強みになっている。今では「モクモクネイチャークラブ」の会員は3万世帯。次の農業プロジェクトとしては、野菜作りをするためのパイロットファームを、国の高度化事業の補助金を使い行っている。
 1995年に、観光農園のファクトリーパークモクモク手づくりファームをオープンした。同時に肉やハムと相性の良い、地ビール事業も全国で3番目に始め、事業間の相乗効果を狙った。地ビール作りは資金がないので農産品と結びつけ補助金(農水省)をもらい、モルト作りから自ら研究して、試行錯誤をした。モクモク手づくりファームは自分たちの生産した豚肉により付加価値を与えるため、ブランド化し、ハムやソーセージのような加工品を作り、レストランで販売する、という事業展開を図ってきた。米ならば20円のおにぎりも小売ならば100円、レストランで提供すれば200円の値付けをできる。また、レストランでは農畜産物の規格外品を活用できるので、既存事業とのシナジーもある。1996年にPAPAビアハウスを開業し、レストラン事業へ進出する。レストランはもともとバーベキュースタイルで豚肉を食べさせる業態であったが、途中、フルサーブの業態へ変えたところ運営で苦労し、再びバーベキュー方式へ戻す迷走もあった。ビアハウス以外にも、日本人の食生活の変化から小麦を使った食材を開発し、地元の小麦を使ったパン、うどん、パスタ、焼き菓子を作って販売するようになった。そして、パン教室やパスタ教室を作り、結果として体験型ファームとしての多様性も広がった。2000年には農村料理の店を、2001年には温浴施設を開業し、体験観光農園としての魅力を向上させている。体験型観光農園はどうしても冬場の入り込みが少なくなるため、冬場の対策として温浴施設が計画された。その結果、年間入りこみは30万から40万人にまでなっている。

3.事業概要
 農業系のコミュニティビジネスに関しては、農水省の補助金制度が充実しており、初期投資などへ活用することが経営安定化のポイントとなる。モクモク手づくりファームへも補助金(15億円)が入っているが、単年度の事業費は20億円以上で売上規模は25億円前後までになっている。年間の設備等への償却費は2億円程度で重いが、農事組合法人を設立してからずっと単年度黒字を維持している。銀行評価はここ1〜2年でよくなってきている。本来ならもっと利益がでるそうであるが、支出を厳しく節約したくないことから費用をかけるべきものには費用をかけていく経営を行っている。体験型観光農園になったことで、客単価は3,800円程度になっており、比較的高額である。
 観光農園はその地域で採れた農産物、その地域でしか手に入らない商品を売ることが重要である。しかしながら、農協や行政が主導する農業公園などは、その原則を守れず、その結果として顧客に満足感を十分与えられないケースもある言われている。モクモク手づくりファームは一つの事業体が一貫して運営しているので、このファームに関係する農産物しか売らない。その結果、モクモク手づくりファームの農産物や商品を欲しければ、ここに来るか、通信販売で直接購入するしかない。モクモク手づくりファームは、多様な事業を展開しているが、レストラン事業が、結果としてモクモク手づくりファームの農産物と商品の有料の試食として機能し、物販にも相乗効果が上がっているとのことである。事業間の相乗効果がうまく設計できている。農業事業自体は何千万円単位での赤字になっているが、それを加工部門、レストラン、物販の利益で補填する形になっている。しかし、農業をやることは、モクモク手づくりファームの経営理念の出発点であり、単なる観光農園と異なったポジショニングを確保するのに役立つ。事業展開はハム作りを幹としたクラスター的な発展を遂げてきた。その結果、リスクを軽減し、相乗効果を享受できたと考える。新規事業として、酪農を基盤にした加工品作りを学び、それを事業化するために補助金を獲得しようと試みている。
 「のんびり体験牧場」事業は、非営利的な特徴を持ち、無料で農業の教育、自然教育、イベントを行っているが、これが結果として家族顧客の開拓とリピート来園への動機づけへ貢献している。のんびり体験牧場では親子のつながりの再確認という課題を解決する効果もあり、家族客には評判が良い。イベントを開催することで、常に情報発信をしてモクモク手づくりファームの認知を高めている。イベントは子供の心にモクモク手づくりファームの想い出を刷り込む。モクモク手づくりファームでの想い出が、将来の消費選択の際に影響を与えるであろうから、重要な先行投資である。幼児期よりモクモク手づくりファームとの関係が形成されていれば、モクモク手づくりファームがその顧客の心の中でオンリーワンであり続けるであろう。そのため、体験観光の事業分野に関して、今後、家族向け体験教室を発展させた教育が新規事業として考えられている。既に農園内では反復使用できるエコボトルで、顧客へリサイクル意識を教育している。また、観光農園全体がBMWで循環型農業をやることを目指し、21世紀型の農業を追求する。体験観光での集客も多く、顧客ターゲットは県外からの観光客を中心とするため、地元との競合が少ない。しかしながら、リピーターを獲得するために、モクモクは変わっているよな、と思わせる仕掛けをしている。観光農園の立地条件はあまり関係なく、立地にあわせた戦略ができるかどうかが重要である。
 地域との関係では、事業開始時は地域の畜産家が中心になって始めたものの、比較的地域との関係は薄かった。他の農業者から儲けすぎと言われ好かれていないかもしれない、という発言も聞かれた。また、加工と販売といった川下の価値を取り込む戦略ゆえに、農協との付き合いも薄いようである。モクモク手づくりファームの事業の発展と共に、取引のある地域の農業者も増えてきているが、付き合いのある農家は農協とモクモクファームの二股をかけているようだ。そのため、モクモク手づくりファームの理念が、取引先の農業者へ十分浸透せず、モクモク手づくりファームの目指す農産物や商品の水準を満たせない懸念がある。また、取引以上の関係が地域の農業者と形成できない懸念もある。そこで、積極的な地域との関わり合いと地域貢献を考え、65歳以上の高齢者が自作の農産物を持込み、販売することができるファーマーズマーケットを作った。顧客と直接触れ合え、少しばかりの収入にもなることから、地元で細々と農業をやっている高齢者の生きがいにつながっている。また、生産から販売までトータルで組織経営をしているため、農業をやりたいという若者がモクモク手づくりファームへ入ってくる。それが地域活性化になっている。
 モクモク手づくりファームは、畜産連合会でマーケティングをしていた人を中心に、人が集まって起業されたので、市場を理解している。起業後も、経営陣は忙しい仕事の合間に、全国を旅をして、本を読んで、いろいろな情報を知り、時流を知り、ニーズをつかみ、考えることをしている。それがモクモク手づくりファームの商機につながってきた。これは知識創造の重要性を理解した、戦略と言えよう。モクモク手づくりファームでは楽しく仕事をすることを組織文化になっている。組織の経営は、全員集会をし、メンバーに対して情報開示を十分に行い、オープン経営をしている。人事評価は相対的評価で、意欲や希望を持つ人にチャンスを与えていく。また、モクモク手づくりファームの経営理念や使命の原点を知って貰うため、年間1週間は必ず、農業体験をさせ、価値観を共有させる。組織は、総務、企画(ファーム・製品・通販)、ファーム運営、生産。農業、ファーム、生産、事務、サービス、小売、ブライダルに分かれている。ブライダルは長期の顧客関係性を形成する窓口になっており、重要である。
4.分析
 モクモク手づくりファームのビジネスモデルは、畜産業をベースに、川下へ垂直統合され、さらに、垂直的な価値システムの中に、複数の価値連鎖を持つ形になっている。こうした、ビジネスモデルは、相乗効果をいかにうまく設計し、経営資源を有効に活用しながら非効率にならないように事業を統合していくことが重要である。こうした関連型多角化をしている事業のほとんどを農事組合法人と有限会社から構成されるグループで担当しており、事業のコントロールはしやすい。課題としては農産物の生産を一部外注化していることであるが、これを内部取引に切り替えるとなると、現状で赤字部門の農業生産部門を拡大することになりかねず、懸命な戦略とは言えない。そこで、農産物の外注先との連結を、使命や理念で強化し、また、ビジネスモデルに強力に埋め込むことで、取引相手を良いパートナーへ育てていくことが重要になろう。地域との関係性が薄く、モクモク手づくりファームの中で完結するビジネスモデルであったが、近年、外部への取引先を増やし、中でも地域の高齢農業者の販売を積極的に行うなど、地域貢献へも力を入れている。これは地域とは遊離した形で、こうしたビジネスを成長させるのには限界があるためとも言える。地域社会の中で新たな経済循環を生み出すような、事業モデルを地域の中に創造できれば、モクモク手づくりファームの競争優位性は揺るぎないものとなろう。
 こうした関連型多角化は、市場や農政といった環境の変化へ柔軟に対応した結果とも言えるが、常に農業の付加価値化を通じた活性化を使命にし、それが農事組合法人設立以来ぶれていないため、事業の極端な分化が起こらず、バランスされていると考える。また、生産者の価値観を消費者へ押しつけるのではなく、消費者の視点に立って生産者ができることを考えた結果、顧客志向の事業展開になっている。また、市場において、観光客をターゲットに、贈り物、土産物、飲食サービスなど、比較的収益性の高いセグメントへ特化していることも、経営に良い影響を与えている。顧客の囲い込みを通じた、顧客生涯価値を高めるために、会員組織や家族向け体験教室といった事業を展開している。立地に関しては、あまり関係ないという話だが、名古屋と大阪といった両大都市から日帰り圏内にあり、近くに他の観光地があるメリットは否定できないであろう。
 組織に関しては、NPO的な全員民主制を取りながらも、リーダーシップが十分機能し、現場への権限委譲もうまくいっているようである。また、エコロジーや新しい農業像などビジョンが明確であり、オープンな組織経営とあいまっで、若者にとって魅力がある職場になっているようである。その結果、モクモク手づくりファームの従業員の平均年齢は20代と、農業分野のコミュニティビジネスではきわめて若い。また、働いている人たちのモチベーションは高いと見られる。

  (2003年3月調査)
5.有限会社 農業法人モクモク決算表

項目 売上高 利益
1998年3月期 610,000 9,000
 1999年3月期 577,000 1,000
2000年3月期 611,000 2,061
 2001年3月期 941,000 2,100
 2002年3月期 1,048,000 2,890
  東京商工リサーチ調査  単位:千円
(注)農事組合法人モクモク手づくりファームの業績情報は不明。